夏の哀悼歌【WT 合作短編集】 (ページ15)

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「本当に申し訳ない、すぐ帰るから」

「外、雨降ってます。ゲリラ豪雨らしいので、やむまで待っていかれては」

「い、いや、人の家で寝ておいてこれ以上居座る訳には」

「こんな大雨じゃ傘も意味ないですよ。怪我してる上に風邪まで引かれては私が佐鳥達に怒られます」

「そ、うか‥‥なら、やむまで待つか‥‥」

こちらの都合が悪くなるという言い分はあっさり受け入れるくせに、自分のためにここに残るという決断はしないんだな、と半ば呆れた。しかし、それを強いてきたのは私達だ。元々誰かのために動ける人が更に求められると、それは冗談では済まされない「自己犠牲」になる。裏表がない分タチが悪い。

「‥‥あの」

これから言おうとすることは完全に私のエゴで、彼のためになるかはわからない。しかし、今以上に言えるタイミングがあるだろうか。

雨がやんでここを出れば、彼はすぐに「皆が信じる嵐山准」に戻るのだろう。怪我については転んだとでも言い、何事もなかったように。そして周囲からの残酷なまでの絶対的な信頼を一身に背負うのだ。

「──お、おい、A！？」

「‥‥っ」

「ちょ、ちょっと待て‥‥あ、あった、ほら」

突然泣き出した私を見て、おろおろと慌てながらもティッシュを探して差し出す彼は、どうしようもなく優しい。

「‥‥また、」

「うん？」

「また、今日みたいに、何もかも嫌になったら‥‥もう無理だって思ったら、ここに来てください」

「‥‥」

「限界がきてなくても構いません、何でもいいので、吐き出しに来てください」

「‥‥それは」

「そうでもしないと嵐山さんが壊れます！」

悲鳴のように訴えれば、ぐいっと腕を引かれた。数時間前、私が彼にしたのと同じような強引さだった。
強く抱きしめられ、子供をあやすように優しく背中を叩かれる。
「‥‥そうか」と穏やかな声が鼓膜を震わせた。「お前は、俺のために泣いてくれてるんだな」

謝られ、ちがう、と呟いた。
謝るべきは私の方だ。勝手に遠ざけて、あたかも人間でないかのように見立てた。彼だって悪意に傷つくし、限界はある。

「約束してください、──私に愚痴をぶつけにくるって」

「‥‥迷惑じゃ、ないのか？」

「そうだったら最初から言ってません」

少しの沈黙の後、負けたよ、と髪を撫でられた。
これが少しでも何かの救いになればいい。自ら助けを求めようとしない彼にとっては、多少無理やりで良かったのかもしれない、と未だぐちゃぐちゃの頭で考えた。