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「おばちゃーん、ありがとうございました〜」
太刀川の少し雑な挨拶が、昔ながらの駄菓子屋の中に響き渡る。
それに続いてそれぞれがお礼を言う。
風間はまだ食べているため、なんて言ってるかよく
分からない。
Aは思わず苦笑いをした。
この駄菓子屋には、この四人が知り合ってから夏になると毎年来ていた。
きっかけは、もう覚えていない。
あの駄菓子屋のアイスがおいしいらしいから行こう、暑い、アイス食べたい、とか。
そんなどうでもいい理由だった気がする。
はあい、という店主のおばあちゃんののんびりした声が聞こえる。
そして、次に聞こえたのは。
.
「これ俺ら来年の夏からあの駄菓子屋行けないってことだよな」
駄菓子屋のおばあちゃんから伝えられたのは、この駄菓子は今年の8月いっぱいでやめるとのことだった。
理由は客が急激に減り、とても上手く運営できる状況にないからだと言う。
『そうなるね』
「これからどこのアイス食べればいいんだ」
太刀川が呟く。
意外と寂しそうな太刀川を見て、この人、心あったんだなとかなり失礼なことをAは考えた。
「コンビニアイス?」
『おいしいけどさあ、なんか味気ないよね。あの駄菓子屋だから夏って感じだったし』
「別にアイスにこだわる必要ないだろう」
「風間さん、みんなアイスに拘ってるんじゃなくて、あの駄菓子屋が好きだったって話でしょ?」
そうなのか。そうだよ。という迅と風間の会話を聞きながらAは考える。
店主のおばあちゃんの「今まで毎年来てくれてありがとう、毎年夏になったらうちの店のこと思い出してねえ」という声が何度頭の中を流れた。
多分ここにいる全員が、きっと、同じことを考えているのだろう。
『そもそもさ、』
__来年の夏にみんなが揃ってるかなんて分からないじゃん。
夏に吹く風というのは、どこか生暖かい。
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作者名:常盤千歳 x他6人 | 作成日時:2020年8月25日 10時