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小説 【一人で歩める君だから】 ページ9

「……ゥ、ぐ」
朝、というより早朝。全身に絡みつく息苦しさと不快感で普段よりずっと早く目が覚め、そしてすぐにドンは自分の身体の異常に気がついた。
寝ているだけだったはずがまるで全力で走り回った後のように全身から滲む汗と、カラカラに乾燥した喉の棘ついた痛みと、ゆっくり確実に締め付けられているような頭の痛み。更には不自然に浮き沈みを繰り返す胸と力が上手く入らず重たい身体がドンの異変を確かなものにしていた。
ドンは静かに深く息を吸って、吐く。それから持ち上げた腕を顔に落とし、口にしかけた呟きを飲み込み心の中で零した。
(……何故、今日なのじゃ)
同室の彼を、起こさないように。

自分の身体が今どのような状態なのか。そんなこと自分が当然一番わかっている。ドンは枕に投げ出された長髪を掴みぐしゃりと乱した。自分が熱を出していることも、それが微熱ではない高熱であることも理解していた。わざわざ道具を使って測らなくともわかる。
普段ならば大人しく休んでいた。このことを同室の相棒に伝え、学校へ行くことなど考えず寝ていた。周りに移す可能性が高くなるから、これは自分だけの問題ではないから。
……けれど今日、そうすることは出来そうになかった。とても重要なテストがあったのだ。その上他にもやるべきことが重なっている。休んでしまえば卒業が出来なくなってしまうかもしれない、そんな大切な用事が重なった日だった。
年に一、二度程度しか風邪を引かないドンがよりによって何故今日、高熱を出してしまったのか。体調管理を怠った? いやそんなはずがない、今日動けなくなることがどれだけ悲惨な結果をもたらすか、考えられないはずがないのだから。では何故、何故。
……いや、今考えるべきことはそれではない。ドンはゆっくり身体を起こし、立ち上がった。休むなどという選択肢はない。ならば他人に移さないよう、最善を尽くせ。
「やり遂げて見せようぞ」
ドンは熱に浮かれた瞳と身体に気合を入れるように、微かに口端を上げた。

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作者名:●龍● | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年6月7日 20時

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