dad ページ4
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「漏れ鍋」は、ちっぽけな薄汚れたパブだった。
それでも、地図がここを指示しているから入らぬことには始まらない。
が、やっぱり不安でユリは養父ヨーゼフ・アッヘンバッハのスーツの袖をつかんだ。
「ほんとにここ？」
「そのはずだ。父さんは地図を読むのがそれほど苦手じゃない……やはり太陽は堪えるな」
そうジジくさいことを言う父とともに中に入ると、やっぱり暗くてみすぼらしい。
客は数えるほどしかいなかったが、明らかに場違いな二人に気を留めることもせず、無駄話などに徹していた。
親子はパブを通り抜け、壁に囲まれた小さな中庭に出た。
ゴミ箱と雑草が二、三本生えているだけの庭だ。
ヨーゼフは地図の脇に書いてある小さな文字を凝視しながら、ゴミ箱の上の壁のレンガを数えた。
そして、あるブロックで数えていた指を止める。
「よし、ここだ。ユリ、右手を貸してごらん」
突然言われ、暫し動きがゆっくりになり。
やっと言われたことを飲み込んで、ユリは右手を高らかにあげた。
「挙手はしなくてよろしい。さあ、押すよ」
ヨーゼフはユリの手首をつかみ、そっとそのレンガを押した。
すると真ん中に小さな穴が現れたかと思ったらそれはどんどん広がり、次の瞬間、目の前に、3メートルはあろうかというアーチ形の入り口ができる。
そのむこうには石畳の通りが曲がりくねって先が見えなくなるまで続いていた。
二人はアーチを潜り抜けた。
ユリが急いで振り返ったときには、アーチはみるみる縮んで、固いレンガ壁に戻るところだった。
「ユリ」
名を呼ばれて、振り返る。
父が、こちらへ腕を曲げて首をくい、と傾げた。
「エスコートさせていただけますか」
そう言うので、その腕に手をかける。
ヨーゼフは悪戯っぽく笑った。
「よかった。フラれなかった」
ユリも肩を揺らして笑う。
彼女は父の、こういう若くてカッコイイところが好きだった。
あと優しいところも。
悪いことをしたら、叱ってくれるのも。
ヨーゼフがすいすい人ごみを歩くので、ユリはきょろきょろ辺りを見回しながら聞いた。
「とうさん、ここに来たことあるの？」
「ん？ああ。まあ」
ヨーゼフは言葉を濁した。
ユリもそれ以上踏み込みはしない。
父の、隠し事の多いのには慣れている。
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にはろ(プロフ) - 理緒さん» ご意見ありがとうございます！修正しました。今後ユリという名前に関する記述が少し出てくるかと思いますが、無視していただければ大丈夫です。 (2022年4月19日 21時) (
レス) id: f8ad011ce4 (このIDを非表示/違反報告)
理緒(プロフ) - 名前ってユリになってるんですがリノを使いたいのですが変えれませんか？ (2022年4月19日 10時) (レス) id: 946438c0c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みや。 | 作成日時：2022年1月24日 13時
