女好き男と男好き女〔森山由孝〕

8*森山side ページ10

淡々とボールを打ちながら思い出すのは入学時。
たくさんの部活勧誘の中からバスケ部を探している時に彼女を見た。

制服を暑くて着崩している者もいる中、ピッチリと肌が見えないほどに着た女の子。
暑い筈なのに、それを苦ともしない涼しげな女の子。
人を引き付けてしまうような美貌を持った女の子。

その子は人ごみから少し離れた場所にある桜の下で、
桜に片手で触れたかと思えば、慈愛に満ちた表情で笑った。

たった1人、桜に向かって微笑む姿は異様な光景なのに。
ありきたりな少女漫画みたいな光景なのに。
俺に向けられた笑顔ではないのに。

森山「っ！」
俺は一目ぼれしたのだ。どこか寂しそうに笑む少女を。

何時もはナンパとかしに行く物だが、その光景を壊したくなくて行くのを止めた。
立ち止まってしまった俺に誰かがぶつかる。
それに1度謝ってから俺はバスケ部の場所へと向かうのだった。

・

咲谷瞳という名前を知ったのは、同級生の噂からだった。

“たくさんの男と寝ている女”“寝た男から金を巻き上げている女”
“悪女”“人間の皮を纏った悪魔”

噂が噂を呼んでいるのか本当なのかは分からないが、
出てくる言葉はマイナスの言葉ばかり。

本人もその言葉の羅列は耳に入っているのだろうに、
その姿は堂々としていて目に焼きついた。

何回かは目にするものの、俺とは別のクラス。
それに初めて本気になった相手なのに廊下で告白する気にもなれなかった。
(友人達総出で止められたから近づく機会さえなかった、のもあるが。)

・

そして高校2年生になった時。席が何のまぐれか隣になった。

思わず告白すれば、“変な人”と返ってきて思わずキョトンとする。
彼女はその時だけは貼り付いた笑みではなく、どこか楽しそうに笑っていた気がした。

近くに行けば行くほど彼女がチグハグは存在に見えて、思わず構い倒す。

男好きだと言われているのに、男とは何処か1本線を引いていてるような気がして。
誰にでも嫌われるように技と振舞っているような気がして。
大事な物だというネックレスを付ける時は何処か切羽詰っているような気がして。

構い倒して1月。
彼女はそんな俺を無視することなく、冷たくだけど返してくれる。
おかしいのだ。色々と。嫌われたいのならば俺になんて返さなきゃいいのに。

ー・−

森山「可笑しいよなぁ・・・。」
色々と考えていたせいか、ボールがリングに弾かれる。
それに溜息をついてから、練習を一旦止めるのだった。

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