第五話 居場所 ページ15
A視点
あれからナツたちはおろか、グレイも帰って来ない。それからエルザちゃんがナツたちを連れ戻しに向かって数日が経っていた。
私はあの日からどうも調子が上がらず、カウンターから皆をぼーっと見てを過ごしていた。
ギルドの皆は次に行くクエストの話や、行った先で見たこと聞いたことで盛り上がって、いつもの騒がしいギルドだ。
無力で役に立たないのに、私は本当に此処に居てもいいのだろうか。
そんな考えが過った。
「よォ〜A〜最近元気ないじゃない?ヒック」
「あ?…なんだカナちゃんか。って、酒臭っ!昼間から飲み過ぎだぞ!!」
「いいじゃ〜ん!ほらAもそんな辛気くさい顔せずに飲めよ〜」
「いや、私は遠慮…カナちゃん。注ぐんじゃない。私の話を聞けよ、おい」
「まぁまぁ、そー言わずに」
断っているのにカナちゃんは、私の手元にあったグラスにドボドボとお酒を注ぐ。そう言えばお酒なんて久しく飲んでない……ちょっとだけ、ちょっと飲むか。別に飲んじゃ駄目とは言われてないし。いやでも昼間から飲むのは…待てよ。これ飲んだら気分も晴れるのでは?たまにはお酒の力を借りるのも悪くない…か。
覚悟を決めて透明な色のお酒が注がれたグラスを、持って口付けた……のだが。
「い、痛っ!舌が痺れるぞこれ!…おいよく見たら度数96じゃねえか!これ普通は薄めて飲むやつだろ?!私を殺す気か!!」
「えぇー薄めたら酒の意味がねーじゃん」
「うるせぇ!このアルコールマニア!!なんつーもん人に飲ませてんだ!」
いくらカナに抗議してもカナちゃんは上の空で、全く反省の色が見えない。というか、カナはこれ普通に飲んでるのか?こいつの肝臓はどうなってるんだ??ある意味バケモノだな。
「で、なんかあったの?」
「あ?あ〜別に。何もないよ」
「嘘。何もなかったら、そんな寂しそうな顔しない」
「カナちゃん……」
「Aはさ、もうちょっと私らに頼りなよ。本当の姉貴みたいに頼りになるAも好きだけど、愚痴溢すぐらいいいんだよ?私ら同じギルドの仲間なんだからさ!」
さっきまで酔っぱらいで、呂律回ってなかったのに一瞬で切り替えて、私を真っ直ぐ見るカナちゃん。いつの間にこんな大きくなったんだ。カナちゃんがギルドに入ったばっかりの頃は、こんな立派な女性になるなんて思ってもなかった。…あと酒豪になるとも。
カナちゃんの言った通り、今日はカナちゃんの言葉に甘えてみようかな。
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作者名:わたがし | 作成日時:2020年3月19日 15時