《閑話》茶包2 ページ50
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そこまで述べて顔を上げると、兵長は今まで見たことのない顔をしていた。にこにこと笑っているわけではないが、その目は無邪気な喜色にあふれていて子どものように輝いている。
「悪くない」
兵長は骨ばった形の良い指で紐を摘んで、先についた茶包から赤茶の滴が落ち切るのを静かにまばたきをして待った。
小皿に慎重にそれを置けば、独特な持ち方で紅茶に口をつけたあと満足そうに口元を緩めている。
絶対零度のポーカーフェイスがこんなに分かりやすく上機嫌になるのを拝見するのは今後1度2度あるだろうか。
「そこまでお気に召したのなら、作り方をお教えしましょうか?」
「知識はもとよりお前が編み出したものだろ。簡単に教えていいのか」
「そんな大仰なものじゃありませんよ」
変なところで律儀な人だなと忍び笑うと眉を顰められた。
メッシュの綿布を2つ折りにして両脇を縫う。ポケット状になったそれに1杯分の茶葉を入れ紐を挟んで上を閉じれば完成だ。
発明品と言ったものの、私がティータイムを有意義に過ごすためだけのものに過ぎないのだから。
「今度の休日にでも」
「ああ」
短く返事をし再度紅茶にこくりと喉をならした兵長に、胸がむず痒いような苦しさに襲われた。
普段全くと言っていいほど感情の起伏を見せない彼の喜びという珍しいものを見たからか、それとも―
かぶりを振って考えるのを放棄した。私の知ることではないし、知ったところで損をしそうだ。
殺伐とした日々のうちでわずかな安らぎの時間が過ぎていく。次来たる休日がほんの少し心待ちになった。
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寿司(プロフ) - 如月さん» コメントありがとうございます。お褒めの言葉、とてもありがたいです。続編についてですが修正のため一時公開を制限しておりました。只今パスワードを解除しましたのでお知らせいたします。これからもよろしくお願いします。 (12月15日 22時) (レス) id: 43549444da (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - とても好きな作品でいつも続きが気になっています。続きが気になって読みたいのですがパスワードを解除することはできないでしょうか? (12月15日 17時) (レス) id: a8542e33a5 (このIDを非表示/違反報告)
寿司(プロフ) - アイカさん» コメントありがとうございます!拙文ではありますが楽しんでいただけると嬉しいです。 (11月21日 22時) (レス) id: 43549444da (このIDを非表示/違反報告)
アイカ(プロフ) - 自分の好きな漫画のクロスオーバー!!中々ない組み合わせなのでめちゃくちゃ嬉しいです!! (11月7日 21時) (レス) @page16 id: bda3c5db2c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:寿司 | 作成日時:2023年10月14日 23時