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私の言うことに疑問を持ちながらも、とりあえず私を信じて英単語と日本語を繰り返す場地圭介の姿はとても滑稽だった。
特攻服を着て、団地のベンチで英単語を唱える男…今考えれば爆死モンだが、当時の私は、場地圭介をなんとかして英単語試験の追試に受からせてあげたい一心だった。
数十分唱え続けた後に、「テスト出しますね」と私が単語帳を片手に「"見る"の英語は…?」と日本語を言うと、場地圭介は難なく「look」と即答することができた。
「すごい!」
「これ、ずっと覚えられなかったヤツだぞ!」
私が無邪気に興奮するのはまだしも、場地圭介も目をキラキラさせて隣で喜んでた。
初めて見た場地圭介の満面の笑みに、思わずドキッとしたのを鮮明に覚えてる。
本当に絵に描いたような、綺麗な木の下の木漏れ日の中で、ニカニカと嬉しそうに使い古した単語帳を見つめる場地圭介が、とても愛らしくて…。これが世にいうギャップか…!良い…!ギャップ良い!と感動した。
そして、いつの日かに「綺麗な顔をしているような気がした」と思っていたあれは、事実、本当に綺麗な顔をしていた。
真剣な眼差しで、単語を覚えようと勉強している横顔は、本当に丹精で整っていた。笑うと覗く前歯も愛らしかった。
思わず何も言えずに見つめてると
「何見てんだコラ。早く次の問題出せよ」
と軽く怒られた。やっぱり怖いことには変わらなかった。
ちょっと世間話を聞くくらいに思っていた場地圭介との雑談は、いつの間にか数時間にも及ぶ英単語のレッスンへと変わった。
塾の予定を初めてすっぽかしたにも関わらず、塾にいる時よりもずっと楽しかったし、何より必死に頑張っているという感覚があった。
実際、他の人よりも確かに勉強が苦手かもしれないし、英単語を覚えるのも少しだけ遅いかもしれない場地圭介だが、「絶対に受かってやる」という根気だけは人一倍強そうだったので、私の教えにも力が入った。
気づいた頃には、外は薄暗くなって単語帳の文字も読みにくくなっていた。
場地圭介も同じことを想っていたようで、やんわりと私に色々聞き始めた。
「お前さ、二年だっけ」
「はい。そうですよ」
「なんで敬語なんだ?同い年だぞ。俺」
「…なんでかというと…」
「…俺のことが怖いのか?」
この台詞を聞くのは今日が2回目だった。
やはり今回も凄く眉間に皺を寄せている場地圭介だったが、さっきよりも眉間の皺が深いような気がした。
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作者名:ポット | 作成日時:2021年9月12日 17時