制服を脱がして、裸の心で【場地圭介】 (ページ13)

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12 baji ページ13

「DV…」

それがいけない言葉であることくらい、馬鹿な俺にもよく分かった。
オフクロの話を聞いて、さらによくわかった。
近所の人がアイツの家から男の人の怒声が聞こえてくると警察に通報していたこと。女性の悲鳴が聞こえると大家さんが相談所に駆け寄っていたこと。ここ数年でそれが悪化してしてきていること…。

アイツが父ちゃんに暴力を振るわれてる。その事実だけで胸糞が悪くて仕方なくなった。

アイツの家は、父ちゃんがタンシンフニンだと言った。だから家に父ちゃんがいないことが多く、ほぼシングルマザーみたいなもんだと。つまり、俺らがここに越してきてから初めて父ちゃんが帰ってきたということになる。そりゃ、仲の良い俺らでもDVの事実に気づけない。
よく考えれば、俺自身アイツから父ちゃんの話を聞いたことは一度もない。母ちゃんとは仲が良いのはなんとなく知っていたし、母ちゃんの話はよくアイツから聞いていた。
だから、最近夜になると上の階が騒がしいのもあって、「母ちゃんと仲良くしてんだな。静かにしろよ。」なんて次あったら言ってやろうと思っていたが、言われてみれば物音がするようになってから一回もアイツに会っていない。

アイツは無事なのだろうか。

…まさか、まさか。そんなことねぇよな。

頭に最悪な事態が過ぎる。

「Aちゃんに会ってる…？最近」

オフクロの懇願するようなその目を見ることさえ俺はできなくて。俺は考える間もなく立ち上がり、ドアを開け、階段を上り、アイツの部屋へと一直線に向かった。

お願いだ。
無事で。無事でいてくれ。

頭の中にはそれ一心しか無くて、俺もこの時のことはよく覚えていない。
ピンポンと妙に明るく空気の読めないインターホンが鳴った時、ドアから出てきたのは紛れもなくAの父らしい人だった。
銀縁のメガネに、キリッとした顔つき、清潔感のある髪型…全てが俺とは真逆のような人間で、想像してたヤツと違うな。と思ったことだけはよく覚えてる。
俺の顔を見て「君は誰かな？名乗りなさい」と気味悪く上から目線で話しかけてくるコイツの顔に、無性に腹が立った。

「テメェ…最近夜何してる？」

とりあえず俺は目の前のソイツの胸ぐらを掴んで、こんなことしか言えない。

その時、部屋の奥から「場地くん…」とか細い声が聞こえた。間違いなく、Aの声だった。初めて名前を呼ばれた瞬間だった。

部屋の隙間から謎いた、怯えるようなAの顔は、どこか懐かしかった。