Cocktail poison (ページ21)

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5杯目:シャンディガフ(3) ページ21

「帰国、するんですか？」
「ええ。ここでの仕事も終わってしまったし、向こうでの用事もあるのよ」

　こっちに戻ってくることは、ないかもしれないわね。と付け加えると、アレニエは少し寂しそうに顔をしかめた。

「ちなみに、これは彼からの餞別」

　といいながらまだ少しだけ残っていたシャンディガフのグラスを揺らして、最後の一口を流し込む。

「……あれは？」
「シャンディガフです。ローザさんの『未来を願って』入れさせていただきました」

　彼からの餞別、と言われたカクテルを見てバーテンダーに問いかけるアレニエ。言葉にさりげなくカクテル言葉を交えて説明するソルに思わず感心する。それを聞いたアレニエもソルの言葉を理解したのか、粋なことをするなぁ、と笑みをこぼした。

「……ああ。じゃあ、もう会えないんですね」
「そうね。今日でこのお店に来るのも最後にするつもりだから」

　そう答えると、残念ですね。と言って目を伏せた。目に見えて寂しそうな彼の姿になんだか申し訳なく思えてくる。必要以上に関わりすぎてしまったのは失態だった。

　名残惜しさを感じていると、そうだ！と明暗を思いついたと言わんばかりの青年が手を叩いた。

「もしよければ、この後、俺の家に来ませんか？せっかくなら、俺も自分で入れたのを貴女に贈りたくて」

　ここの国の子は随分と積極的なんだな、と改めて感じる。断る理由もないし、と一つ返事で了承した。その返事に嬉しそうに口角を上げる彼に、笑い返す。

　この国に滞在していた間、何度も通ったこのバーともそろそろお別れだ。この店の店員も、店の雰囲気も、自分の国ではあまりない静かな店だった。自国にいるとわからないが、私の国はやたらと騒いで酒をあおるらしい。こんなに静かに、酔いに体を預けていたのは初めてだった。

　あまりいては名残惜しさが膨れ上がってしまうと思って、席を立つ。アレニエとともに店の敷居を超えた。

　ありがとうございました。という言葉を背中に受けて、もう二度と来ることがないのだと実感した。