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夢を見た。暖かな夢だった。きっと幼い頃の夢。優しくて甘い夢。例えるなら、杏仁豆腐のような。
魈様が私を見ている。そうして、手を伸ばそうとして、やめた。どこか思い詰めたような表情だ。どうしてそんな顔をするのだろう。
私は彼に手を伸ばす。私の手は小さかった。だから、魈様に触れることさえ叶わなかった。けれど、私の行動を見た魈様は、驚いた後に、少し気恥しそうに私の手を握った。
赤子の頃の記憶だ、と判断するのは容易いものだった。魈様は、触れると壊れてしまうとでも思って、私に触れなかったのだろう。まぁ、気持ちはわからんでもない。力余って骨を折ってしまうかもと、そう思うほどに赤子は柔い。
「……こやつの名は」
「Aと言うんだ。良い名だと思わんかね、金鵬」
声が響いた。聞き馴染みのある……魈様のお声と、懐かしい父の声。父は魈様を金鵬、と呼んだ。私の知らぬ名だ、とうの昔に名乗るのを辞めてしまった彼の名だろう。
「悪くない名だ。成長が楽しみだな」
「ははっ、そうだろう? 俺たちの仲だ、たまには面倒を見てやってくれよ」
父と魈様が楽しそうに話している。そっと逞しい腕に抱きしめられ、父の顔が視界にうつる。人が良さそうで、全てを包み込むような優しい瞳。そこに私の顔が映る。
魈様が私を覗き込み、ふにふにを頬をつついた。それに私はきゃあきゃあと楽しそうに声を上げている。
「貴様がそう言うなら考えてやらんことも無い。ところで、
「はは、心配しなくていい。我が子が可愛すぎて別室にいるだけだ」
「……お前は大丈夫なのか、
「変な心配をするんだなぁ。俺はむしろ、ずっと一緒にいたいよ。こんなに可愛くて愛しい子なんだ、1人にする訳にはいかない。」
父はケラっと笑いながらそういった。悠婉、侖霖。母と父の名だ。この2文字でよく人柄を表せている、素敵な名だと思う。私は父と母が大好きだった。
……2人は、どうして死んでしまったのだろう。もうそれすらも覚えていない。きっと覚えていたのだろうけど、魈様が忘れさせてくれたのだ。
きっと、あの術で。
「……あぁ、もし将来この子が誰かと結ばれるなら、お前のようなやつがいい。なぁ金鵬、娘をもらってくれんか?」
父が楽しそうに笑った。こんな会話をしていたのか。人の未来を勝手に決めやがって、と私は少しムスッとしてしまう。赤子にこの感情は反映されないけど。
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