⑹ 風よ、瞬いて -- Venti ページ21
私は吟遊詩人が好きだ。
透き通り、風に乗って遥か彼方宇宙まで届きそうな声。空気を揺らすハープの、柔らかな音色。受け継がれてきたモンドの英雄譚。そのどれもがロマンに溢れていて、私を魅了するに相応しい。
私はモンドで作家活動を行っている。事実に基づいたフィクションを描くため、お仕事としても吟遊詩人は必要な訳だ。
彼らが歌うのは、伝統的な英雄譚。それが資料と言わずしてなんと言おう。
そんな大事なお仕事資料宛である「吟遊詩人」の中でも、一際異彩を放つ者がいる。
いつでも楽しそうに歌い、酒をせびり、猫を避ける吟遊詩人──ウェンティ。彼は自分のことを世界最高の吟遊詩人だと言うが、まさにその通り。
才能は記述するまでもなく最高であることながら……彼の歌はいつだってユニークだ。ウェンティの歌から発想を得た物語は、とんでもなく人気が出る。無論、天才と言う言葉が一番似合う吟遊詩人である……と、私は評価している。
ウェンティが詩を解説してくれるとき、いつもその場にいたかのように話すのだ。自分はバルバトスとでも言わんばかり……想像力が豊かな彼だからこそ、面白い詩がかけるのだろう。私は書き手としても彼を尊敬している。
今日は、ウェンティが新作が出来たと連絡をくれたので、バルバトス神像の前で待ち合わせの約束を取り付けている。時間通りに行くと、彼はいつも通りハープを弾いて歌を歌っていた。その歌声に聴き惚れていると、視線を感じたらしいウェンティが私を捉えた。
「ふふっ、僕の歌に聴き惚れちゃった？」
ウェンティは、悪戯をした子供みたいに笑って私に問いかけた。木々の隙間から漏れた日光が、彼の髪にあたってキラキラ光っている。
神秘的だ、と月並みな感想を心の内に秘めながら、私は彼に返答する。
「そんなのいつもの事だろう。さっきまで歌っていたのは、新作かい？」
「ご名答！ 君が時間通りに来ると予想を立てて歌ったんだけど、どうだったかな？」
「最初から最後まで聴かせてもらったが、憎たらしいほど安定して"素晴らしい出来"だった。やはり君は天才だな」
「ふふん、そうでしょ？ なら早速解説と行こうか。この詩に込められた思いを君に教えてあげよう」
彼は明るく笑うと、ハープで軽く音楽を奏で始める。これは彼の癖だ。私に解説をする時、ウェンティはいつも音楽を奏でる。
彼はいつも通りの調子で、解説を始めた。
「これは、バルバトスの恋の物語だ」
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