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影片の話によれば、斎宮さんは私を夕食に誘うつもりでいたらしい。兎にも角にも、行っても行かなくても悲惨な結末が待ち受けているような気がしてならない。しかし、もし行くとして、例えば乱暴をされたとしても、これ以上は先ほどのような力技で困難を切り抜けるのは不可能だろうから、まだ行かない方がマシかもしれないと思った。
「影片!ごめん!今日は、その、やる事とか、いっぱいあるから行けないの…」
そんな私の拙い思考の旨を影片に伝えるため、ぱん!と廊下いっぱいに響き渡るような音を立てて、神を拝むような勢いで手を合わせ、頭を下げる。
「えー!それ、お師さんの家でやられへんの?」
「うん、たぶん無理……」
影片のいじけるような、そんな声が降ってくる。少しばかり……いや、かなり良心が痛むが、それでも言わねばならぬと腹を据えて謝罪する。
「だから、今日は勘弁してください!」
……たぶんこれで、きっと心の優しい彼は「仕方ないなぁ」なんて言ってくれるはずだ。なんて、余裕をこいて帰った後のことを考え始めたのだが、どうも今日は運がついていないらしい。
「うーん。……いくらAでも、それは無理や」
──受諾拒否。まさかの成り行きに、私は多大なる焦りを隠しきれないでいた。どうすればいい?そんな単純かつ明快な疑問に当てはまる答えが、どこにも見当たらなかった。
「でも、ほんとに今日は……」
深く俯いて、無様な言い訳のようなことをブツブツと口にする。そんな言い訳を並べて、ここを切り抜けようだとか、馬鹿な自分にはこれくらいしか思いつかないのがとても哀しい。
そうして私が一人で煮えきらないでいると、影片はそれを見かねたのか、私に質問を投げかけてきた。
「Aは俺達と夜ごはん食べるの嫌なん?」
「そうじゃない、ですけど」
違う。私が今、切に悩んでいるのはそういうことじゃない。自分の命の危険に関わることなのだ。そうして私は影片に曖昧な返事を返すと、彼はポケットから何かを取り出して、静かな声で言い出す。
「……じゃあ、合意ってことでええよね?」
「え?」
ガチャ、と無機質な音を立てて、冷たい何かが私の手首を囲ったのがわかった。
───手錠だ。
「……どういうことかな影片」
「捕まえて逃げられないようにしてるんやで!」
いまいち掴みきれていない状況に、混乱を見せないようにと思って平然を装っていたが、その行動に相反する影片の純粋な瞳が、私を動揺させてやまなかった。
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あかりん(プロフ) - 面白い!続きが気になります!更新を頑張って下さい (2017年8月26日 23時) (レス) id: d4b62537e4 (このIDを非表示/違反報告)
さくひめ(プロフ) - 面白いです!!続きがめっちゃ気になりますーーー!更新頑張ってください! (2016年10月3日 23時) (レス) id: 1c1b177d87 (このIDを非表示/違反報告)
ぱるミン(プロフ) - りす。さん» すみません!返信するのが遅くなってしまいました!そう言っていただけて光栄です!なんとか更新できましたので、見て下さると嬉しいです。 (2016年6月12日 2時) (レス) id: ea368a524a (このIDを非表示/違反報告)
りす。(プロフ) - 初めまして!とても完成度の高い作品で続きがとても気になって仕方ありません!!!更新待ってます!応援してます!! (2016年5月16日 4時) (レス) id: a81e0f26a7 (このIDを非表示/違反報告)
ぱるミン(プロフ) - にわかわにさん» ありがとうございます。語彙力も少なく、まだまだではありますが、そう言ってくださると、やる気が出ます(*´`)更新頑張りますね! (2016年4月10日 9時) (レス) id: ea368a524a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱるミン | 作成日時:2016年4月5日 17時