プロローグ ページ1
───『Valkyrie』が『fine』に敗れてから、かなりの時間が経過した。あの日から季節はどうしようもなく普遍的に巡っていったし、僕の愛してやまなかったマリオネット──仁兎は、新年度になると『Valkyrie』から脱退し、他のユニットに属することになったと、いつか何処かで誰かから聞いた。
自分の元から離れていった彼を、はっきりとした決意持って離れていった彼を、操り人形としてまた自分の元へ連れ帰すのは、もはやお門違いなことだと悟るのにそう時間はかからなかった。
今は影片と2人で『Valkyrie』として活動しているが、自分も影片も、仁兎が欠いたこの現状に、ほんのわずかに悲しみの影を揺らしていた。そしてその悲しみは、川の水が石や岩を侵食していくように、静かにゆっくりと、僕らの心を削り続けていっている。
本当は、来る日も来る日も、心のどこかで待ち望んでいたのだ。仁兎がまた、自分たちの元へ戻ってくるのではないかと……。また、あの笑顔を独占できるのではないかと……。何の確証もない、一筋の光も差し込まない闇にも近いような希望を、心のどこかに密かに抱いていた。
(今日も君は、帰って来ない)
狂いそうになる自分の心を、自分のプライドで押さえつけて、隠し通した。影片には、もっと活動に集中するようにと、以前よりさらに口酸っぱく言うようになった。彼はそれに従順に従っているが、時折辛そうな顔を見せては、あのへらへらした笑顔でそれを隠していた。
───もう、それぞれ限界が近いと。そんな気がしてやまなかったはずなのに。
「『Valkyrie』プロデュースを担当することになりました。月野Aです」
凛として、それでいて透明な声が、無限に広がった霧を一瞬にして払ってしまったようだった。仁兎とは全く似ていなかったが、それでも来る日も来る日も夢に見ていた美しさと可憐さはたしかにあって、僕と影片は、言葉はなくともすぐに同じことを思ったに違いない。
───この子が、僕達の心を埋めてくれる、と。
一目惚れのようなものだった。甘く蕩ける感覚と共に感じた、禁忌の果実をひとかじりしたような快楽が、僕達がパンドラの箱を開けてしまった音だと気づくのは、もうあとほんの少し先の話である。
235人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あかりん(プロフ) - 面白い!続きが気になります!更新を頑張って下さい (2017年8月26日 23時) (レス) id: d4b62537e4 (このIDを非表示/違反報告)
さくひめ(プロフ) - 面白いです!!続きがめっちゃ気になりますーーー!更新頑張ってください! (2016年10月3日 23時) (レス) id: 1c1b177d87 (このIDを非表示/違反報告)
ぱるミン(プロフ) - りす。さん» すみません!返信するのが遅くなってしまいました!そう言っていただけて光栄です!なんとか更新できましたので、見て下さると嬉しいです。 (2016年6月12日 2時) (レス) id: ea368a524a (このIDを非表示/違反報告)
りす。(プロフ) - 初めまして!とても完成度の高い作品で続きがとても気になって仕方ありません!!!更新待ってます!応援してます!! (2016年5月16日 4時) (レス) id: a81e0f26a7 (このIDを非表示/違反報告)
ぱるミン(プロフ) - にわかわにさん» ありがとうございます。語彙力も少なく、まだまだではありますが、そう言ってくださると、やる気が出ます(*´`)更新頑張りますね! (2016年4月10日 9時) (レス) id: ea368a524a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぱるミン | 作成日時:2016年4月5日 17時