磔/1 ページ24
只管、気味が悪かった。
もう来るなと拒絶し、あんたは誰だと何度詰め寄っても、彼女は答えず、ただ困ったように微笑んではまた明日と手を振るのだ。
おれの記憶にない、この得体の知れない女は、どうやら明日も来るらしい__と、その事実に何度だって嫌気がさす。
「…なぁ、お師さん」
「なんだ、影片」
「あの人、なんで毎日来るん」
おれがそんな疑問を口にする度に、お師さんは口を閉ざしては、痛ましいというように目を伏せる。
その煮え切らない態度が逆恨みとなり、また彼女への嫌悪を募らせた。
「…あの子は、約束を守っているだけなのだよ」
意味深なことを残し、これ以上は答えられないというようにお師さんは部屋から出て行った。
__約束。
その言葉に、何かが引っかかる。例えるなら、喉に小骨が刺さったような、そんな曖昧な感覚、しかしそれは決して思い出せるものではないと、何故だかそんな気がした。
そんなもどかしい感情をぶつけるように、元凶の彼女に当たるのは必然か理不尽か、自分でも判断が付かなかった。
「あんたがうちに来るようになってから、お師さんも様子が可笑しいし、ほんま、なんなん」
「…みかくん」
「そうやって!…そうやって、名前で呼ぶのも分からんし、おれはあんたのこと知らんのになんでそんな親しそうに話しかけんの!」
最早、何が引き金になっているのかの区別もつかない。
ただ、堰を切ったように溢れ出す激情は、紛れもなく本心だ。
「あんたが、居らんかったら今も変わらずに幸せやったのに、あんたが来てから、おれは、」
その感情に流され、決定打となる言葉を使おうと口を開いた時、
__ぱしんと、乾いた音と共に、頬を打たれる。
じんと、後に響いて来る痛みにじわりと涙が浮き上がり、口論覚悟だ口を開きかけては、自分の顔を張った本人の目から滞りなく溢れる涙に思わず言葉を呑んだ。
「…ほんま、訳わからんわ」
打たれたおれよりも、あんたがそんな痛そうな顔をするわけも、そんな泣き顔に酷く心が締め付けられる、おれ自身のことも、全部、ぜんぶ、分からないまま。
磔/2→←Algún día seré tu príncipe/5
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苺果汁(プロフ) - とくめい様、ねむい様、素敵な作品をありがとうございました! (2018年11月6日 0時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
苺果汁(プロフ) - コメント失礼致します。殆どの夢主やあんスタキャラが自殺を選ぶ中で三毛縞さんだけが彼女の幸せを願って生き続けることを選んでいるのが胸に刺さりました。三毛縞さんのソロ曲が彼の本心であるのなら本当にそう行動しそうだなと思い、思わず涙が出てしまいました; (2018年11月6日 0時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - まめだいふくもちさん» わああまめさんありがとうございます光栄です…!コメント見た瞬間息止まりそうでした本当にありがとうございました…! (2018年3月21日 8時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - コメント失礼します。お二人とも好きな作者さまなので、お二人の合作短編が読めてとても嬉しいです。忘愛症候群という切ない題材を繊細な文章で書き上げられていて、どの話も素敵でした。作品を書いてくださってありがとうございました! (2018年3月18日 21時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
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