アイム・ヰノセント/6 ページ32
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病室に足を運んだのは断罪されるためか。死刑宣告されるためか。それとも、許されたかったのか。どちらにせよあの子は目覚めない。許されない。俺のことも、知らないのだ。沢山の管に繋がれたあの子は白いベッドの中に沈んでいた。管を引きちぎって、攫ってしまったら。それこそ重い罪で捕まってしまう。そうしたら楽に、なれるだろうか。手術が終わった後らしく心電図は正常である。
君が景色の中にいた以前の世界で、俺は君に何という言葉をかけたのだろう。何を思って、何を伝えたのだろう。先程の幼馴染の言葉で、“ 忘れている ”ということを知ったのだ。今君に、何という言葉をかければいいのだろう。じわじわと目元が熱くなって、抑えるように首を横に振って椅子に座る。
「 …Aって呼んでもいい? 」
何処に届くと思ったのだろうか。その名前を反芻して、不謹慎かもしれないけれど少しだけ笑って見せた。きっと以前の俺は、あの画面の、君の笑顔に惹かれていたのだろう。病室の外で足音が聞こえて、聞き慣れた声がするも誰かに止められたのか遠ざかっていった。胸を撫で下ろして、無意識のうちに手を伸ばす。
初めて君に触れた。
その手は酷く小さくて、白い指は生気を感じさせない。はじめまして、と小さく笑った。君はぴくりとも動かないけれど。償っても償いきれない罪は、君のその手で軽くなるのだろうか。目覚めたら、その指で触れてくれるのだろうか。俺のことを知らない君が、またあの笑顔を見せてくれる日は来るのだろうか。
今日は眠らないつもりだった。もしかしたら記憶は、眠ることでリセットされているのかもしれないから。だから今日は、一日中君の側に。
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辺りを闇が包んでいく。特別に1日だけ、朝までここにいる許可を貰った。やはり夜にもなれば不気味である。けれど看護師さんも「 頑張って 」なんて言ってくれたから、もうどうしたって堪えるしかない。
11時50分。時間が流れるのは早過ぎた。君は依然目覚めないまま、白いシーツに縫い付けられている。
11時51分。白い指を握って離さないようにと体を強張らせる。
11時52分。一分一秒、時が流れていくのを感じる。どうか、このままで。
11時53分。眠くなんてない。夜更かしなんて慣れたものである。大丈夫、大丈夫。
11時54分。もしこの手を離してしまったのなら、命を手放すのと同じなのだ。
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苺果汁(プロフ) - とくめい様、ねむい様、素敵な作品をありがとうございました! (2018年11月6日 0時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
苺果汁(プロフ) - コメント失礼致します。殆どの夢主やあんスタキャラが自殺を選ぶ中で三毛縞さんだけが彼女の幸せを願って生き続けることを選んでいるのが胸に刺さりました。三毛縞さんのソロ曲が彼の本心であるのなら本当にそう行動しそうだなと思い、思わず涙が出てしまいました; (2018年11月6日 0時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - まめだいふくもちさん» わああまめさんありがとうございます光栄です…!コメント見た瞬間息止まりそうでした本当にありがとうございました…! (2018年3月21日 8時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - コメント失礼します。お二人とも好きな作者さまなので、お二人の合作短編が読めてとても嬉しいです。忘愛症候群という切ない題材を繊細な文章で書き上げられていて、どの話も素敵でした。作品を書いてくださってありがとうございました! (2018年3月18日 21時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
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