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「...ごめん。」
「謝らないで。もともと、私が伊野尾さんに思いを伝えなかったら、こんなことにはなってないから。」
「ううん、俺が悪い。」
「どうして?」
「俺が、先にAのこと好きになった。」
「へ?」
「Aを初めて見たとき、可愛い人だなって思ったんだ。一緒の課の大ちゃん、いいなって。最初は先に俺を頼ってほしくて、困ってる君に声をかけた。」
「え...」
「だんだんといろんなこと話せるようになって、笑ってくれるのが嬉しかった。怒られて泣きそうになってるAを見ると、俺がなんとかしてあげたい、守ってあげたいって。」
「...あの、」
「そのうち、Aも俺に好意を持ってくれてるって気づいた。でも俺からは言えなかった。言えないくせに、Aにもっともっと近づきたかった。あの日、Aが俺に告白してくれた日、偶然に俺も残業だったんじゃない。わざと、Aと2人になりたくて残った。...ごめん、君から始まりも終わりも言わせてしまったね。」
切ない顔の伊野尾さんを見ているうちに、涙が溢れてきた。
「優しいAに甘えてしまって、本当にごめん。辛かったよね。俺とこんなことになってしまって。誰にも言えなくて、寂しい思いばっかりさせて...こうやって、外でデートもしたかったよね。」
伊野尾さんの顔が、どんどん涙でぼやけて見えなくなった。
「...ごめんなさい。」
「俺こそ、ごめん...」
私は引き寄せられるままに、伊野尾さんの胸の中で思い切り泣いた。
今日で、これで、伊野尾さんに抱かれるのも最後だ。
しばらく、このまま。
落ち着いた私が顔を上げる頃には、日が傾きかけていた。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です。」
「そう?」
「はい。会社でも、泣かないから。」
「うん、もう俺は助けてあげられないから。困ったときには、大ちゃん頼りなよ?」
「有岡さん?」
「大ちゃん、嘆いてたよ。Aさんが全然なついてくれないって。」
「なつかないって...」
「ああ見えて、大ちゃんAのこと、ちゃんと見てるよ。能力のある人だって。もっと自分に自信持って、誰にも遠慮なんかしないで、いろんなこと挑戦してごらん?」
「...はい。」
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作者名:Momanao | 作成日時:2019年9月8日 23時