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『ただいま』
「おかえりなさい、A。…ごめんね、お母さん少しの間、」
『わかったよ。私の事はいいから、』
家に帰ると微かに香る甘い香り。
その香りで母親のヒートであることを悟る。
ヒートの時期は父も母もほとんど寝室に籠りきりで、私は広い家に1人になる。
そんなのはもう気にならなくなったけれど、何よりも耐え難いのは、ヒート明けの久し振りに見る母の姿。
私の父親の愛は歪んでいる。
夫婦の絆よりも番というのは切れないもので、本能には抗えない故に母親は父親に何をされても逃げる事ができない。
父親もそれを理解しているから、ただ本能に任せて 愛という名の傷をつける。
「お前も俺と同じだよ」
幼い頃に目に映った母の姿は目を塞ぎたくなるほどで、父親を責めたてたこともある。
その時に浮かべた父親の表情と声は今でも嫌な程鮮明に覚えている。
当たり前の様にその時から父親を嫌いになったし、そんな父親の言いなりになっている母親にも嫌悪感情を向けた。
それと同時に、自分のα性が恐ろしくなったことも覚えている。
「AはAだよ、他の人と一緒なんかじゃないから」
何にも自分の価値を見い出せなくなった時、そんな時にいつでも傍に居てくれたのがめいだった。
彼はβでヒートが無い。
相手を傷つけることがない その安心感だけで生きてる心地を実感できた。
運命なんて、私も相手も傷つくなら、そんなの要らない。
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作者名:弥雲 | 作成日時:2021年9月24日 11時