歪め。【宇髄天元】

助ける ページ30

彼は気絶しているようだった。

肩で息をしながら、もう一人の顔を見上げる。


『不死川、先生…』

言わずと知れた数学教師の不死川先生だった。

「怪我は」

『ないです』

「痛むところがあったら無理すんなよ」

頷き、立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
今にも涙が出そうで、唇を噛む。

「ん」

不死川先生が手を差し伸べる。

手を握ると、引き上げてくれる。

「それにしても、とんでもねぇ男に狙われたなァ」

『はい…』

でも、彼のことも心配だ。
あんなに優しかったのに、何があったんだろう。

「…同情しても辛ェだけだ。やめとけ」

『…はい』

「ほら、警察行くぞ。
実際襲われかけたし野放しにしとくと危ねェだろ」

『はい』


安心した。
不死川先生は頼りになるし、警察との受け答えもしっかりしていて心強かった。

来てくれて本当に良かったと思う。


「うし、お疲れさん…無理すんなよォ」

『はい、本当に、ありがとうございました』

深々と頭を下げる。
助けてもらってばっかりだったな。

わざわざ家まで送ってもらったし。


『…』

今日の朝くらいからずっと、
何かあったときは宇髄くんが助けてくれるんじゃないかとか考えていた。


高校生だった頃、不良から私を護ってくれたときみたいに。

失礼だし、都合はいいし、矛盾しているし
自分がどれほど薄っぺらな人間なのかが分かる。

けど、とにかく不死川先生には感謝しないと。

おはぎでも差し入れようかな、なんて考えて靴を脱いだ。





ーーーーー

『もしもーし』

「不死川だ」

『おう、もしかして…』

「お前の予想通りだったぜ、宇髄。事態は片付いたがなァ」

やっぱりか、という気持ちだ。
全く望ましくはない。

『砂川は…』

「無傷」

胸を撫で下ろす。

「ったく、めんどくせェこと頼みやがってよォ」

『悪い悪い、けど、本当に引き受けてくれてありがとな。
今度奢るから』

仕事が遅くさえなければ俺が行ったんだが、今日に限って、だ。

「それにしても…いいのかよ、宇髄が俺に頼んだって言わなくて」

『言う必要がねぇよ。
あいつが無事ならそれでいい。ありがとな』

知ったところで戸惑いこそすれ良い思いはしないだろう。

『不死川も気をつけてな』

「おう、じゃあなァ」



電話が切れる。

少しだけ、自分が助けに行っていたら、と思う。

Aはなんて言うだろう。

まだあわよくば、なんて考えている。
俺はかなり愚かしい。

送る→←逃げる

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す