鋼鐵塚蛍が嫁を取ったらしい【鬼滅の刃】

五.婚礼 ページ6

「うん、綺麗ね」

『ありがとうございます…』

ああ、ついに私が白無垢を着る日が来るなんて。

なんとなく諦めていた、というか
もう婚期逃したとか思ってたのに。


面をつける。

「お化粧したのに…」

『あの人、私のことおたふくと同じ顔って言いますから大丈夫です』

どきどき、というかひやひやする。

蛍くんは暴れていないかしら。

「じゃあ、行きましょう」




歩きにくい…裾を踏みそうだ。

蛍くんは、待っていた。
黒い袴を着ている。そんなに機嫌は悪くなさそう。


「遅い」

『第一声がそれって…感動ないわね』

「行くぞ」

こういう日に蛍くんはどんな感じなのかとか
色々考えてはみたけどやっぱりいつも通りなのね。

私は浮ついている。

それからは、想像した通りの厳かな式だった。
蛍くんは本当に静かだった。



「この度はおめでとうさん」

「おめでとうございます」

「末長くお幸せに」

『ありがとうございます』

もちろんこういう式は何度か見たことはあるが
自分たちが主役となると景色が全然違う。



次は御神酒を飲むんだっけ。

面をずらして猪口を口元に寄せる。
蛍くんと目が合う。

何か言うかわりに笑いかけると、蛍くんはすぐに御神酒を飲み干してしまう。

私も慌てて飲む。


『これは永遠の契り、らしいね』

相変わらずの仏頂面にこそっと語りかける。

「…そうか」

もっと何か言ってくれたらいいのに。
期待はしないけれど。

…三十にもなって考えることじゃないか。




式は無事終わり、角隠しを脱ぐ。
ありがとう、白無垢。夢のようだったよ。

『お疲れ様、蛍くん』

「疲れた」

『蛍くんの我慢のおかげで成功しました。
心より感謝します』

深々頭を下げる。
今日はさっさと帰って刀でも研ぐつもりだろう。


「Aの夢だからな」

『んっ？』

鼻先を人差し指でつつかれる。
人の顔を突くのが好きなのか。

『私の為に頑張ってくれたの？』

蛍くんが人の為に何かするとは、なんて思うのももう筋違いなのかもしれない。


「いや、俺がやりたかった。
その理由が、お前の憧れだったから。それだけだ」


言葉に詰まる。
蛍くんがそんなことを言い出すとは。

あまりにも、綺麗事だ。


『…本当にありがとう』

何はともあれ、もう正式な夫婦なのだ。
あぁ、変な気持ちだ。

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