鋼鐵塚蛍が嫁を取ったらしい【鬼滅の刃】

三十七.春一番 ページ38

春告鳥の声で目が覚めた。

かなり過ごしやすい気候になってきて、つい起床が遅れる。
いつも早起きな妻も、隣で寝息を立てている。


布団から覗く無防備な寝顔は珍しいものであった。

なぜか俺の手を握っているし。

『A…』

起こすのがなんだかもったいない。


しばらくこうしているのも悪くない。
そう思いもしたが。

『…起きろ』

やはり起こすことにした。

頬を軽くぺちぺちと叩く。


「いたい…」

俺はどうも力加減が苦手なようだ。

Aは目をしばたかせながら、ゆっくりと体を起こす。

あくびを噛み殺す間抜けた顔はまだ幼いと思う。
実際、七つも歳が下なのだが。


「眠たい…」

『寝ぼけてる暇ねぇぞ』

もう一度頬をぺちぺちする。

「んー…あっ、そうか」

と、突然何かに気づいたように目を見開く。

「ごめん、早く起きなきゃね」

『そうだろ』

「うん」

Aは慌てて寝室から出て行ってしまい、
俺だけが取り残される。

暖かい空気に微睡みそうになるが、そんな場合ではない。


今日は花見に行こうと、約束をしていたからだ。


重い体を起こし、寝間着を脱ぎ捨て着物に腕を通す。

心なしか動きが早くなっていて
…なんだか、浮かれているみたいだ。





「いい天気ねぇ」

嬉しそうなAに何か言おうとしたところで強く風が吹く。

ほんの少しよろめいた肩をつい抱いてしまうと、Aはまた笑った。

「ありがとう…春一番かしら」

『…気ィつけろよ』

Aの髪か、はたまた着物からか、柔らかい香りを感じる。

胸がくすぐられる感覚に戸惑いながらも手を離した。


夫婦となった今でも…むしろ夫婦となってから
俺はなんだかAに対してぎこちなくなってしまったように思える。

昔はこんなんじゃなかったのに。


「あ、そうだ。お団子、食べる？」

Aは嬉しそうに小さな風呂敷を取り出した。
中にはお手製のみたらし団子。

食う、と答える前に手が伸びてしまう。


「ふふ、花より団子よねぇ、蛍くんは」

全くもって間違いない。

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