絵 空 事 【限定短編集】

＊ ページ9

事故だった。
京都から新幹線に乗って、品川駅で降りそのまま帰宅しようとしたところを信号無視した車が彼女を轢いた。


どうして彼女だったのか。
他の人でも良かったじゃないか。
じゃあ一体何故、彼女だったのか。

そう思ってしまうことは罪ではないだろう、


白い布を被せられて。
冷たくなった彼女の手を、握っても。
いつものように握り返してくれはしないのに。
それでも、もしかしたら目を覚ましてくれるのではと思ってしまう。



僕は、彼女の名前すら呼ぶことが出来なかった。





.





『そう言えば、おは朝見ていて。一週間連続で蟹座が一位だったんだけど、あれってどういうこと？真太郎の念？でもラッキーアイテムが全部入手困難なものだったから、ざまぁみろーなんてちょっと笑っちゃった。』




あの時の事は今でも覚えている。
たまたま秀徳と練習試合を組んでいて、それはもう大変だった。
ラッキーアイテムはタイの魔除けで、そんなものどこで手に入れたのかと笑ってしまう程物珍しいものだった。


今週は蟹座絶好調だし、魔除けあるし、真ちゃん最強だもんねー。なんて得意気にあのトンデモ技を使って見事三点差で勝利を収めた秀徳、もとい緑間君は人事を尽くした結果だとうっすら笑みを浮かべていた。

珍しいこともあるんだな、もう一回やろうぜ、と火神君は言って、練習試合にもう一回はないのだよ！なんてボールを思いっきり投げていた。…と、



少し物思いに更けすぎた。
結局何もせずに自宅へ戻る頃には日は傾き、夜を迎えようとしていた。


一年前、あれとそっくりなものを見付けて買ったのはどこにしまっただろう。
ぼんやりと思い立って、引き出しの中を探した。

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