絵 空 事 【限定短編集】

＊ ページ18

日曜日、午後一時


あのひとが作った朝ごはんを食べたのは正午過ぎのことだった。
仕事は当然ながら休みで、今日一日ゆっくり過ごすことが出来る。

何をする訳でもない束の間の休日は酷くつまらないものだけど、それでもいい。


丁度、ゆっくり考える時間が欲しかったところだ。



おはよう。

ぽつりと取り残された言葉はどこかに消えていった。





.





私とあのひとが出会ったのは、高校生の時だ。
二歳年下の私を、先輩として可愛がってくれた。

それが恋愛対象であったわけではないと、知っていた。
妹のような後輩だと思っていたんだろう。
実際に五つ離れた妹さんがいるらしいから、とても面倒見が良かった。



この関係が崩れてしまったのはきっと、あのひとに彼女が出来たからだ。


私が高校二年になって少しして、大学生になった彼にはいつの間にか彼女がいた。

決してこれが初めてなんかではないだろうし、どちらかといえばモテるタイプだったからそれなりに恋愛経験は豊富らしかったけど



どういう訳で、こうなってしまったのか。
きっかけは未だ掴めない。
いつの間にか私の部屋に来て、夜を迎えて朝になれば

あのひとは消えてしまうのだ。


几帳面に手紙まで書いて、出来合わせだけどなんて朝ごはんを置いて。
私がそれを食べる時には昼を過ぎている為、朝ごはんとは言えないかもしれないけど。



あのひとに彼女が出来てから今まで
ずるずると続いているこの関係を、どうすれば立ち切ることができるのだろう。
あの頃のような、ただの先輩後輩関係でなくなってしまった。

けれど別に、それでも良かった。
本当は、これを望んでいたのかもしれない。
ずっと、それこそあのひとの彼女なんかよりも前から好きだった。


胸を張って、愛してると言える。
月が綺麗ね。だから私、死んでもいいわ。
誰に求められた訳でもないけど、そんなことも言える気がする。

月が綺麗くらいならきっと、笑って流してくれるだろう。
けれど死んでもいいなんて、重すぎるかもしれない。


きっと私の気持ちを全て汲み取って、困ったように笑うの。

何が残る？
例えば真実に変わることがあるなら、それはいつだろう。
偽りの関係がいつか、本当のものになればなんてそんな叶うことのない望みは捨てた。



そこにあるのは、悲劇にしかならない結末。

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