絵 空 事 【限定短編集】

＊ ページ15

「で、今日はどうしたの」





何かあったんでしょ、ニコニコしながら首をかしげて。
なんでも相談して、みたいな感じで言ってるけどごめん。





「…」





別れ話。
あれ、付き合ってるのかも曖昧だったんだし、別れ話ではないのかも。
あぁ、じゃあ何と言えばいいの。






「ははは、どしたのAちゃん。らしくないね」


「ねぇ涼太。」





好きだった。
初めて見た時、なんて格好いい人なんだろうと思ったけど。
遠くから見ているだけでも、それでも良かった。

誰にでも、優しい。
女の子なら、だれでも。
私に向けた笑顔が特別なんてことはない。その他大勢の一人。



例えば。
涼太のルックスとか、モデルの肩書きとか。それ目当てで近付く女を見るときの、あの目。

あの目で、これから私を見て。
涼太から、別れを伝えてくれるなら。
私は、嬉しい。





「いいのよ。一年前、私も貴方も酔っていたから。だから、もう終わりね」





さっきまで暖かかったミルクティーは既にもう冷めていて、ゆっくりと口に入れれば予想以上に冷たくて。


涼太は少し目を開いて、それから愉しそうに細めた。
へぇ、そう。とだけ言って、私を見つめる。





「終わりでいいわ、だから、ねぇ。」





貴方の大嫌いな涙を流すの。
黒い涙を流せば、くだらないおとぎ話も終わりを告げる。

あぁ、なら良かった。
貴方はきっと私を冷たい目で見て、泣くとかあり得ないって笑うのね。
それでも構わない。
私は変わらず、毎朝ミルクティーにハチミツを入れて飲むわ。大好物だから。





「愛してると言って。言ってくれないなら私、死んでもいいわ」





あぁ、死んでもいいわ。
貴方にそんな文学的な知識はないと思っていたけれど。
でも、その言葉がピッタリ。
死ぬなんて言う重いやつ、確か嫌いだったよね。

早く家に帰って。
レポート、終わらせないと。



愛してる、だから早く。





「あぁ、泣かないで」





羨ましい程細く綺麗な指が、涙を払う。
黒い涙を、優しく。


貴方は最後まで優しいひとね
けれど、とてもひどいひと





「笑っちゃうね。終わりになんかしたくないくせに。ああ面白い」





BGMが変わる。
静かに席を立ち、私の傍までやってきた。


馬鹿みたいね。
まだ魔法にかかったまま。
ああ私が姫なら、貴方は王子？





「抱き締めて欲しいなら、ちゃんとそう言えばいいのに」





どうせなら、一生とけない魔法をかけてよ。

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