残念だったね、【黒バス】

それは事実 ＊ 赤司征十郎 ページ5

否定して、必要として、そんな風に二人は生きていた。たとえ世界が二人を否定しても、それでも私は傍にいたい。無条件に全てを受け入れるから、だからどうか隣にいさせて。



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違和感は感じていた。征十郎の中に確かにいたもう一人の存在がいつの間にかまるで最初からなかったものだったかのように思い始めたのだ。
嫌な予感がして探ってみても彼は普段以上に綺麗に微笑み、するりとどこかへ行ってしまう。

彼はどうしたのだろう。いつもしていたように目を瞑って問いかけても、優しく囁いてはくれなかった。
ざわつく胸と、焦燥感に駆られて征十郎の後を追おうとしても見当たらない。

これは、あってはならないことだった。
狂った世界で、彼と、彼だけは変わってはいけない存在だった。どれだけひとが忌み嫌っても、私だけは貴方達の味方だった。いつだって二人が傷付かないように、ずっと、




「A」




声が聞こえる。頭が痛い。目眩がして、しゃがみ込んだ。冷たいコンクリートの上で、じっと痛みが止むのを待った。




「A」




声が聞こえる。どちらの声なのか、もう私にはわからなかった。わからなくなっていた。
私が悪いのか？二人の違いを見分けられなくなってしまった、私がいけないのだろうか。それとも、本当に、二人は一つになってしまったのだろうか。
それじゃあ、一体、貴方は誰が守るの。彼は、誰が守るの。




「目を開けて」



は、と小さく息を吐き出して、ゆっくりと目を開く。明るい世界に慣れない視界はチカチカと点灯している。顔をあげた。風に揺られる綺麗な赤い髪が目に入ると、何故だかわからないけれど、笑みが零れたのだ。

冷たい指先が私の頬に触れると、今までの痛みが全て消えてしまった。私はたまに、このひとは魔法使いなのてはないかと思う時があるのだ。いつだって私は助けられている。

喉はカラカラだ。絞り出した声は枯れていた。




「彼は、まだそこにいる？」

「いないよ」

「彼は、いまどこにいる？」

「もうどこにもいないんだ」




ああ、可哀想に。
二人ぼっちの世界はとうとう消えてしまった。彼らを守る美しい鳥籠は、もうないのだ。
この汚い世界が彼らを傷付けてしまった。

もうどうしたって戻ることはできないということを、知っている。泣き喚くことだってできやしない。それでも私は、傍にいたかった。一緒に生きてきたのは事実だろう？


ひとつ、瞬きをする。
私の記憶の中の二人はもうどこにもいない。

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