残念だったね、【黒バス】

愛しさ余れば ＊ 黄瀬涼太 ページ3

好きだと思えば思うほど、嫌いになる。
嫌いで、大嫌いで、溢れてくる憎悪はいつの間にか愛に変わっていた。
ずっとずっと、それの繰り返しだ。

今すぐにでもその首を絞めて、どうか私だけのものになって。みんなの王子様じゃない、私だけのものになって。



.



毎日仕事が終わるのは残業含めて11時過ぎ。およそクリーンとはいえない職場に嫌気が差して、けれど今更退職する訳にはいかない。
朝起きて支度をして、何気なく付けたテレビからは6時前からやっている報道番組が流れていた。

キセリョ、熱愛発覚！
デカデカと書かれたテロップを一瞥して、それから電源を消した。
もう今更何も思わなくなったと言えば嘘になる。苦しくてどうにかなりそうだった。オレにはAちゃんだけだよ。甘い声が今でもずっと、頭の中を支配しているのだ。



馬鹿だと思うか。ずっと帰りを待っていること。最後にデートしたのは何年も前のことだ。
思い出したようにふらっと帰ってきて、名前を呼んで、それから優しく抱く。オレにはAちゃんだけだよ。

何も知らない振りをしているのだ。繰り返される浮気にも、抱き締められた時に香る香水にも、気付いていない振りをしている。唯一無二だった私は、いつの間にかただの都合の良い女に成り下がっていた。



残業を終えて退社する。家が職場に近くて本当によかったと思いながらすり減ったヒールを鳴らしてアパートの階段を上った。
鍵を開けて靴を脱いで、冷たくなったフローリングを歩けばワンルームの狭い部屋にあるシングルベッドの上に座ってスマホをいじる男がいた。




「···涼太」


「Aちゃん、おかえり」




両手を広げて笑うその男に、恋をしていた。もう10年になる。
何ヶ月振りだろうね。もうずっと会っていないから、忘れてた。何でもないように笑って見せて、ゆっくりとその腕の中に飛び込むのだ。
馬鹿らしいだろう。どうしようもなく憎いのに、その気持ちすら全部恋に、愛に変わってしまうなんて。




「ねぇ、あんな報道嘘だから。オレにはAちゃんだけだから」


「うん、」




次に会うときは、こんな甘ったるい香水なんかじゃなくて、ずっと前に付けていたような爽やかな香りの香水をつけてきてね。

ちゃんと涼太になったら、ただいまって言ってあげる。

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