『インモラル』

40 ページ40

「久々に二人で昼飯食いに行こうぜ」

みっくんに珍しく誘われて、二人で街中を歩いた。

前に比べて少し友達付き合いが減ったみっくん。

「何食いたい？」

「みっくんが食べたいものでいいよ」

「ん〜、どうすっかなぁ。…あれ？」

え？何？

みっくんが見てるほうを見て、心臓が止まりそうになった。

藤ヶ谷さんと、女の人が歩いてる。

あれが奥さん…？

藤ヶ谷さんも私達に気づいた。

「藤ヶ谷〜、偶然だな」

「ああ、そうだね」

「誰？」

藤ヶ谷さんの奥さんの顔を見て、私は驚いた。

この人、前に映画館で玉森くんと一緒にいた人だ。

すごく美人だったから覚えてる。

「同級生の北山と、…Aちゃんだよ」

藤ヶ谷さんが「奥さん」じゃなくてきちんと名前で紹介してくれた。

「Aちゃん？」

奥さんが不思議そうにした。

「藤ヶ谷、それじゃわかりづらいだろ」

みっくんは私を引き寄せると、「こいつは俺の奥さんです」って説明した。

「えっ？奥さん？主婦なの？見えな〜い」

笑われて嫌な気持ちになった。

「なんか…学生みたい」

フッて笑われる私。

「あ〜、うちのは色気ないからね。藤ヶ谷の奥さん、噂通りの美人たな！」

「ふふ、はじめまして。太輔の妻の皐月です」

「藤ヶ谷マジでめちゃめちゃ羨ましいわ！これは交換したくないよな〜」

「交換？」

「あ、すいません。前に家で飲んだときに冗談で奥さん交換してよって藤ヶ谷に言ったら嫌がったからさ」

「え〜、太輔ってば。冗談なんだから話に乗ったらいいのに」

笑い方まで色気のある皐月さん。

「ベタ惚れなんじゃねぇの？なぁ」

私に同意を求めてくるみっくん。
「そうだね」って言いたいのに声が出ない。

「…A？」

みっくんが怪訝な顔をした。

「いいよ」

藤ヶ谷さんの言葉に私達は一斉に彼を見た。

「交換。してよ、北山」

「は…？」

「太輔？」

「俺も北山と一緒で羨ましいよ。可愛いらしくて料理が上手で、従順な奥さん。すごいそそるけど」

顔が赤くなった私を睨む皐月さん。

「お前、何言って…」

動揺するみっくんに藤ヶ谷さんはフッと笑った。

「冗談だよ」




そのあと皐月さんがどうしても一緒にランチしたいというから、近くのレストランに入った。

料理を頼んだ後、緊張からかお手洗いに行きたくなり席を立つと「私も」って皐月さん。

何で…。

レストルームに入ると皐月さんが言った。

「はじめまして、じゃないわよね？」

41→←39

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す