『インモラル』

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「あ、あの」

「映画館で会ったでしょ？確か裕太と同じ職場なんだっけ？」

「はい…」

「大学生かと思って、裕太と一緒にいても気にせず話しかけて後悔したわ。まさか旦那の同級生の奥さんだなんて」

「あの、玉森くんとはどういう…」

「簡単に言うと不倫」

「えっ…」

鏡に向かい、メイクを直す皐月さん。

「どうして…あんなに素敵な旦那さんがいるのに」

「私、別に太輔に不満があるから不倫してるわけじゃないのよ」

私のほうを見てにっこり笑う。

「太輔は優しいし、大事にしてくれるけど…」

私みたいに好きでどうしようもなくなった、とか？

「まだ遊びたいの、私」

何、それ。

「毎日家事してるだけじゃどんどんオバサン化してくし、夫もそんな奥さんには見向きもしないわ」

「藤ヶ谷さんは、そのこと…」

「薄々は気づいてるんじゃない？けど別に問いつめたりはしてこないの。彼、あまり執着心がないから」

「…」

「けど、あなたに対する太輔の態度がいつもと違うから。だから私、あなたに興味が出て誘ったの」

皐月さんが詰め寄るから一歩下がった。

「Aちゃんって…、太輔のこと好きでしょ」

「違、います」

「誰が見てもわかりやすいわよ。きっとあなたの旦那さんも気づいてる」

みっくんが…？

「笑ってるけど、太輔を敵視するような目をしてるから」

全然気づかなかった。

「太輔とどこまでしたの？キスは？もう抱かれたの？」

声が出ないから無言で首を振る私。

「彼、上手でしょ」

そんなの、知らない。

「…まだなんだ。ふ〜ん」

私の後ろにまわる皐月さんに首筋を指で撫でられ、身体が跳ねた。

「ふふ、怖がりすぎ。…こういうとこが男心をくすぐるのかなぁ」

私とは違うタイプだわ、って笑う皐月さん。

「秘密を共有する者同士、仲良くなれそうね」

耳元でそう言った後、息を吹きかけられた。

「ひぁっ」

「太輔と楽しんでね。そのほうが私も気兼ねなく裕太と遊べるから」

でも、と言って皐月さんの声が低くなる。

「私のだから、ちゃんと最後には返してよ？」

そう言い残して、皐月さんは出ていった。

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