『インモラル』

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街中に入ると、スムーズに車を走らせることができた。

藤ヶ谷さんは私の手を離した。

離された手を見つめる。

「好きだよ」っていう言葉を録音するのと、ずっと手を繋いでいるのと、みっくんは果たしてどっちが嫌なんだろう。

私からしたらどちらも変わらないのに。

でも藤ヶ谷さんは、私が降りないように捕まえてたわけだから、手を繋いでいるっていう感覚はないのかも。

「…痛かった？」

私がいつまでも手を見つめているのが気になったのか、藤ヶ谷さんが気まずそうに聞いた。

「いえ…大丈夫です。でも手を繋ぐのって浮気になりますよね？」

「繋いでたんじゃないよ、捕まえてただけ」

「でもみっくんからしたら、浮気になりますよ」

「…ごめん」

「だから藤ヶ谷さんも、ふざけすぎですね」

私が嫌味たっぷりにそう言うと、藤ヶ谷さんは少しムッとした顔をした。

不覚にも、そんな顔にすらキュンとしてしまう。

「…なんか、Aちゃんのイメージがどんどん崩れてくな」

「ガッカリしました？」

「うん、かなりね」

「みっくんの前では我慢してるだけだから。ほんとはワガママだし、身勝手だし」

私の言葉に藤ヶ谷さんは溜め息をついた。

「そう」

もう二人で出掛けることはないんだろうな。

良かった。

嫌われれば、もういくら私が藤ヶ谷さんに惹かれても、冷たくあしらってもらえる。

中途半端に優しくされるのは辛いし。

「自宅より手前で降ろして下さい。みっくんに一緒にいるとこ見られたら困るから」

「北山、今日のこと知らないの？」

藤ヶ谷さんは驚いた。私だけが来ることになったって勘違いしてたみたい。

近くで車を停める藤ヶ谷さん。

「…今日はありがとうございました」

「…」

私がそう言っても無言の藤ヶ谷さん。

数時間前まであんなに笑ってくれてたのに。

でも仲良くなりすぎる前に嫌われて良かった。

ドアを閉めて、歩き出した。

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