二○三高地に置いてきた魂 ページ5
旭川には特に何事もなく到着した東谷と月島。しかし、旭川の基地からが一番の山場なのだ。27聯隊は、あの鶴見息がかかった隊だ。当然、変態(狂人)も多い、と月島は語る。
「月島軍曹!鶴見中尉殿が何処に居るか知らないか!?」
その第一関門的な立ち位置の者が来た、と月島の雰囲気は語る。顔はいつも通りの仏頂面、無表情に近いが纏う空気が違う。対して東谷は鶴見を信仰する教徒のような人物だと見抜いているだろう。何故ならば、胸ポケットからチラリとブロマイドが見えたからだ。実際、月島が小樽方面に居ると告げると分かりやすいように膝から崩れ、落ち着く為か胸ポケットから例のソレを取り出したのだ。いつから鶴見の写真はモルヒネになったのだろうか。
「月島軍曹殿、依頼を手早く…『手早く』済ませたいから、早く案内して欲しいのだけど?」
「…っ、月島ァん!そこの女はなんなのだッ!答えろ月島ァ!!!」
東谷は手早く、と強調して口を開けばこの薩摩隼人、今東谷の存在に気付いたらしく、月島に詰め寄る。内心では『面倒臭い』と思っているのだろう。それに気付かないのは薩摩の男のみ。
「ご機嫌よう、私は東谷A…本土で霊媒師をしていたの」
「此処には依頼で来たわ。月島軍曹殿には案内をして頂いているのよ」
「そうなのか月島ァ!それで、依頼と言うのはなんなのだ?」
月島は、ため息を一つ吐くと、渋々語り始めた。
「尾形上等兵の診察のようなものです。鶴見中尉殿曰く、非科学的なものからの意見も聞いてみたい、とのことです。」
「…尾形百之助か。意識不明らしいな。あの性格だ、罰でも当たったのだろう」
良い気味だ、と続くような言い方で、続け様に彼は語る。
「Aと言ったな!」
「忠告しといてやろう。尾形百之助には、関わらん方が、身の為になる。」
意味深な言葉を残し、彼は去る。後に残るは静寂のみであった。
＜東谷目線＞
「良く分からないけど、嵐のような人だったわね…」
名前は知らないが、褐色肌だから、大方薩摩の出だろう。
しかし、『尾形百之助には関わらないが吉』と言う意味そのままの言葉。どういう意図で私に伝えたのか、真意は薩摩のあの人のみぞ知る。
こうしている内にも、月島軍曹の案内は続いていた。優秀な軍人である。
そして遂に、尾形百之助が居る部屋に辿り着く。
「俺は部屋の前で待っているから、見てくるといい」
と、月島軍曹は目線を廊下の曲がり角に向けながら言う。先には、あの薩摩隼人が居た。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
