甘味処でする話とは ページ4
＜東谷目線＞
「そう言うのは受け付けてないのだけれど…」
思わず身を引きながら鶴見中尉に言い返す。まだ交際もしたことがない一般人の私を捕まえて、そんな会話をするだろうか。軍人と言うのは変人の集まりなのだろう。
軍人は変人と分かった時くらいだろうか、鶴見中尉が語りだす。
「そこまで態度に出すと言うなら、少し頼まれてはくれないか?」
曰く、彼の部下が最近、山の高所から落下し、顎の接合手術をしたらしい。外傷は大体完治に近い程治っているらしいが、何故か目覚めないようで、旭川の基地で昏睡状態が続いているとのこと。名前は尾形百之助と言うらしい。
軍医でも手を焼く状態の人間を、たかが占い師兼霊能師である私が見ても意味がないのでは?と思うのだが、軍医と言う科学で分からないのだ。試験的に非科学的なモノに頼ってみよう、と今しがた思い付いた、と語る。
今思い付いた事を即実行に移す姿勢は尊敬するが、胡散臭いとは思わないだろうか。そのような意を伝えると、鶴見中尉は然も当然のように
「俺は命と言う蝋燭をボリボリしちゃう死神だ。貴様のように、幽霊とやらは視認出来るのさ。」
つまり、尾形と言う男は霊的存在の影響により目覚めない、と言う訳だ。鶴見中尉に霊を払う事は出来ないらしい。因みに、彼の背後に並ぶ霊魂は見えない様子だ。そう言う事は良く有るので、放っておく。態々関わる義理もない。
「…で、頼まれてくれるな?東谷A。」
「……そうね、条件を呑んでくれるなら、その依頼を受けるわ」
条件とは、きっと暫くその旭川基地に滞在することになるから、衣食住を安定させ、私の身の安全を保証すること。やり方に口出ししないこと。これらだ。
鶴見中尉は条件をしっかりと聞いた後に、承諾。隣の月島軍曹は呆れた様子だ。
月島軍曹は苦労人だと感じた。常識人であると…。
「では、早速私が案内しよう…と言いたい所だが……、実は用事がありましてなぁ。」
「代わりに月島軍曹と行ってくれたまえ。」
やはり、中尉ともなると軍人としての仕事も多いのだろうか。この変人の仕事は、何だか逆に難しそうに思えた。何処か狂っている人間程、何故か仕事が出来ると言うアレだ。
「では、月島軍曹、頼むぞォ…!」
「はッ!必ずや旭川に辿り着きます!」
月島軍曹は敬礼と共に去っていく月鶴見中尉に返事をした。私も、これからの［大仕事］を達成する為に頑張らないとならない。
久方ぶりの依頼だ。張り切っていこう。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
