紫陽花の記憶〈後編〉 ページ15
紫苑が優しく茉莉の涙を拭う。
地面に溢れ落ちたのは紫苑の涙だけだった。
「‥‥‥どうして、お母さんが泣いてるの?」
茉莉が枯れかけた声で尋ねる。
「茉莉が心配だったのと、安心したから。本当にびっくりしたんだよ。茉莉の声が聞こえて」
「うん‥‥‥ごめんなさい。でも、それなら私とおんなじだね」
「‥‥‥同じ?」
「私もね、お母さんが心配だったの」
「雷が怖かったんじゃなくて?」
「それもそうだけど‥‥‥お母さんがいなくなっちゃいそうな気がしたから」
まだ、怖いよ。そう呟いて紫苑に抱きつく茉莉。その温もりにひどく安心感を覚えて、それだけ自分も怖かったのだと思い知らされた。
「そっか。‥‥‥ありがとう、茉莉。心配してくれて」
「うん。お母さんも」
ぎこちないがようやく笑顔になり、茉莉も紫苑もほっと息をついた。雨はまだ降っているが、雷は止まったようだ。
「もう少し雨宿りしてから帰ろうか」
まだ抱きついたままの茉莉の頭をポンポンと軽く叩く。うん、とくぐもった声が聞こえて、紫苑は先ほどよりも穏やかに微笑んだ。
雨は降れば必ず止むものだから。きっと、この悪夢のようだった雨だって止むのだ。
それまでの時間は、目の前の温もりを抱きしめていよう。
紫陽花の蕾にこの幸せを閉じ込めて。
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氷雨 - お兄様〜早く更新してほしいなぁ〜(ハァト (2017年9月30日 16時) (レス) id: da09b77ce1 (このIDを非表示/違反報告)
甘党オレンジ(プロフ) - 氷雨さん» あまり安心できないなそれ (2017年8月20日 7時) (レス) id: 10ef3df574 (このIDを非表示/違反報告)
氷雨 - 甘党オレンジさん» 当たり前でしょう。カノとモモの会話にデジャヴしか感じなかった。安心しろ、セクハラ組も同じポジションだ (2017年8月20日 4時) (レス) id: 3b913bb1e0 (このIDを非表示/違反報告)
甘党オレンジ(プロフ) - ミサさん» めっちゃ共感されてますねありがとうございます。シンタロー君モテそうですけどね。…マジで誰か応援派の人いないかなぁ (2017年8月19日 23時) (レス) id: 10ef3df574 (このIDを非表示/違反報告)
甘党オレンジ(プロフ) - 氷雨さん» …私はカノと同じポジションですかね? (2017年8月19日 23時) (レス) id: 10ef3df574 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:甘党オレンジ | 作成日時:2017年2月7日 22時