紫陽花の記憶〈後編〉 ページ14
「はあっ、はあっ」
涙目の茉莉が森の中を走っている。
時々空を切り裂く雷にビクッと体を震わせながらも、その足を止めることはなかった。
「お母さん！お母さん！！」
もう、視界を滲ませているのが自分の涙か空の涙かもわからない。
ただひたすらに紫苑の名前を叫びながら、茉莉は森の奥へ奥へと走っていった。
その頃、紫苑は＿＿＿_____________
「‥‥‥どうしよう。全然止まないなぁ」
予想以上に強くなってきた雨風を凌ぐため、近くで見つけた洞穴に入っていた。
一方に弱まることのない雨足に、いっそ走って帰ってしまおうかと思っていたのだが、洞穴から一歩足を踏み出した瞬間雷鳴が鳴り響いたのだ。
雨の日の、特に雷が鳴っている時の森は危険だ。紫苑は洞穴で少しでも雨が弱くなるのを待つしかなかった。
「茉莉、大丈夫かな‥‥‥」
ぽつりと呟く。
紫苑と一緒に居ても稲光だけで怯えてしまう茉莉の事だ。今頃家で泣いているに違いない。
「早く、早く止んで‥‥‥」
そう紫苑が願った時だった。
「‥‥‥さんっ！お母さんっ！どこ‥‥‥」
聞き慣れた声が、いつも紫苑を笑わせてくれる茉莉の涙声が、耳に飛び込んできた。瞬間、弾かれたように立ち上がる。
「茉莉！？」
柄にもなく取り乱し、大声で叫ぶ。「お母さん！」と、今度はさっきより近くに聞こえたような気がした。
あの子が、森にいる。私のせいだ。私が、私があの子を置いていったから。早く帰ってあげなかったから。
「茉莉っ！」
愛おしい娘の姿を求めて、紫苑は走り出す。声のした方に向かって、全速力で走る。
濡れて重くなった髪の毛が鬱陶しかった。長年家から出ていなかったおかげで、すぐに縺れそうになる自分の足に苛々した。
それでも、紫苑は足を止めようとはしなかった。
走れ。走れ走れ走れ。もっと早く。
自分で自分に怒鳴りつける。あの子の元に少しでも早く着くために。あの子の側にいるために。
走れ。
やがて二人の思いが重なって、お互いの姿を見つけた。
「茉莉！」
「お母さん！」
駆け寄って抱き締める。幸い別の洞穴が近くにあったため、二人してそこに転がり込んだ。
「ごめん、ごめんね茉莉。お母さんが茉莉を置いていっちゃったから‥‥‥ごめんね」
「私っ、も‥‥‥勝手に外に出て、ごめん、なさいっ」
洞穴に嗚咽と息遣いがこだまする。
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氷雨 - お兄様〜早く更新してほしいなぁ〜(ハァト (2017年9月30日 16時) (
レス) id: da09b77ce1 (このIDを非表示/違反報告)
甘党オレンジ(プロフ) - 氷雨さん» あまり安心できないなそれ (2017年8月20日 7時) (レス) id: 10ef3df574 (このIDを非表示/違反報告)
氷雨 - 甘党オレンジさん» 当たり前でしょう。カノとモモの会話にデジャヴしか感じなかった。安心しろ、セクハラ組も同じポジションだ (2017年8月20日 4時) (レス) id: 3b913bb1e0 (このIDを非表示/違反報告)
甘党オレンジ(プロフ) - ミサさん» めっちゃ共感されてますねありがとうございます。シンタロー君モテそうですけどね。…マジで誰か応援派の人いないかなぁ (2017年8月19日 23時) (レス) id: 10ef3df574 (このIDを非表示/違反報告)
甘党オレンジ(プロフ) - 氷雨さん» …私はカノと同じポジションですかね？ (2017年8月19日 23時) (レス) id: 10ef3df574 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：甘党オレンジ | 作成日時：2017年2月7日 22時
