【あらき】Distress of love【歌い手】 (ページ10)

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「いただきます」

朝作ってもらったものを夜食として食べるなんて、どれだけ仕事熱心なんだろう。食事も忘れて仕事するのは日本人の悪い癖だと思っていたけど、自分もそれに該当するとは思わなかった。

「そんな集中してるの珍しーよね、どしたの？」

「んー……なんというか、こう、活動拠点を変える前の最後の舞台な気がするから……。これ以上フィルでやってても無駄な気がするし、どうしよっかなって」

フィルでやってても、なんかこう、機械みたいな歪みとかテクニックしかなくて、面白さがない。

「自分で決めたことなら、反対はしないけど。後悔すんなよ」

「後悔しないためにも、路頭に迷いそうになったら養ってね」

「それはちょっとどうしよう」

なんて軽口を叩きあって、二人でお箸を進める。朝ごはんのメニューだからさっぱりしているけど、わかったことがひとつ。
……このきゅうり、美味しい。

「このきゅうり、ほんと天才」

「それねー、知り合いのお嫁さんが教えてくれた」

「へー……」

じとりと見つめると、なんの焦りもなく、大丈夫浮気とかできないから、って訂正された。いやわかってはいるけど、本当に竹を割ったような性格だな。

「いやー、その夫婦さ、ほんと面白いの。あ、今度会う？」

「色々バレるの都合悪いんじゃないの？」

「んー、Aがフリーになるなら平気かなぁ……まぁ、自分のやりたいことやれよ。今までキッツイ型に押し込められてたぶん」

「それ、さらっと人生の重大決断迫ってない？」

「あ、バレた？」

なんて、軽いくらいの会話かもしれないけど、わりと心の中は決まった。

そんな、午後十一時半。