【あらき】Distress of love【歌い手】 (ページ17)

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「行ってらっしゃい」

「行ってくるけど、絶対俺がいない間に新しく穴開けないでね」

「うん、わかってるって」

昔ちらっと言ってたのを覚えてるだけだけど、彼女は愛されてるだけじゃ気が済まないらしく、その証拠を残したいらしい。それが、彼女にとっては痛み、形として残るピアスだったってだけで。

ライブやら何やらで地方にいる間は、全くと言っていいほど連絡を取らないので、その間に幸せでいてほしくない。

なんて、我儘かもしれないけど、惚れた女を幸せにするのは自分だけでいいと思う。ほかの男に幸せそうなAの顔なんて見せたくない。

「あらきー、ゲーム死んでるよ」

ライブ前の待機時間に、ぼんやりと考え事をしていたから、やりかけのスマホ画面にはgame overの文字。

「わかった、Aのこと考えてたんでしょ」

「んー、違ぇよ。ラフテーともずく、ちゃんとご飯食べてるかなって」

「わかりやすいなぁ」

「え、なになに、あらきさんの恋バナ？」

「うわっ、出たよそらるさん」

「俺イコールめんどくさいって思うのやめて」

「めんどくせぇだろ」

結局、game overの文字はしばらく画面に表示されたままだった。
少しだけ、家が恋しくなったかもしれない。