【あらき】Distress of love【歌い手】 (ページ12)

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長いようで短い二時間。ミスもなく機械的に、演奏が終わって、控え室に戻る。

もちろん、仲良くお喋りでもするような友人は一人もいないので、相棒と一緒に。……でもちょっと寂しいな。この歳で友達ってどう作るんだろう。宗に聞いてみるかな。

手早く着替えて、荷物をまとめて、誰にも話しかけられないうちに外に出る。門出なんて、誰にも祝ってもらわなくても、惜しんでもらわなくたって構わない。どうせ一人で進んで、ときどき誰かに支えてもらっての繰り返しだから、もう二度と会わないだろう人たちにどう思われてもいい。

「あ、いた」

あ、いた。赤いやつ。といっても、普段の感じとは違ってカジュアルダウンされたスーツ姿。そりゃオーケストラだしね。こういうときくらいはフォーマルでいてくれ。

「最後くらい飲みの迎えに行くかと思ったけど、いつも通りだったね」

「だって私、友達いないじゃない」

「やっぱそういうとこ最高だね」

「ありがと」

とりあえず、重い荷物と思いを置いていくために家路につく。
大人しめの服装はあまり好きじゃないから、さっさと帰って外面を剥がしてビールでも飲みたい。生憎、それほど強くもないからすぐ酔うんだけど。

「いい演奏だったよ」

「ありがとう」

友達がいなくても、大切なひとが近くに少なくても、仕事場に不満がクソほどあっても、そのひとことで充分だと思う。あとは、ご飯と猫があれば完璧。

東京の、ネオンと排気ガスで汚れた空を見上げて帰った。