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第123話「過去夢と」夢主 ページ31

それは、例えば、掬った砂が手や指の隙間から落ちてゆく感覚。

例えば、蛇口から流れゆく水を、必死に止めようとするような感覚。

…いつも、そうだ。
例えばあの時も、あの時も、私の力が足りなかったばかりに…失ってしまった。

二人の、姿と…彼の倒れている姿を、重ねて見てしまった。

「……いろは、ちゃん?」
「ん……」

優しいその声に、目が覚める。

「敦、くん……!」

やっと乾いた頬が、また濡れていく。

「良かった、良かったっ……!私、私っ……!」
「……いろはちゃんは、大丈夫だった?」

必死に言葉を繋ぐ私の髪を、彼の……敦くんの優しくて、少し硬い手が撫でる。
その手は、壊れやすいものを触るかのように、丁寧に、そっと、さらさらと撫でていく。

「……うん。大丈夫。かすり傷、一つさえ。」
「なら、良かった。」

敦くんは、春の日差しの様に暖かで優しい声で、表情で、そう私に笑いかける。
私は、少しぐらい、何なら全部、変わったって良かったのに、と云いかけて…やめた。

敦くんが、とても安心したように笑っていたから。

太宰さんも、優しい笑みを向けてくれるけど、太宰さんとは違う。
敦くんは、もっと優しくて綺麗で、私だけに向けてくれているのが分かる。

「敦くんは、もう…大丈夫?」

私が、そっと…恐る恐る、傷が有った辺りを触ると、敦くんは少し頬を赤く染めながら、困ったように笑う。

「うん。大丈夫。」
「そっか。…与謝野姉さまの異能、流石だなぁ…でも、本当に…良かった。」

私がそう云うと、敦くんは優しく私を抱きしめる。

「心配してくれて、有難う。」

……そう、敦くんは、静かに私に云った。

ドアの向こうで、少しの隙間から私達の会話を、太宰さんが聞いていた。
太宰さんは、とても嬉しそうに、悲しそうに……目を伏せて、聞いていた。

「……いろは。」

第124話「尋問(前編)」夢主→←第122話「異様な襲撃…?」夢主



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設定タグ:文スト , 中島敦 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年7月10日 12時

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