ルージュ【朔間零】 (ページ4)

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「アドニスさん、同じものをもう一杯お願いします。」
「嬢ちゃんや、そろそろペースダウンした方が良いぞ？もう3杯目じゃ。」

もうそんなに飲んでいたのか。

零さんがこの店のオーナーであることや、下のフロアで昼間は零さんのお友達がレストランをしていること、今までに来た面白いお客さんの話…

ずっと家の事ばかりしていた自分には、どの話も楽しくて、刺激的だった。

それでついお酒が進んでしまったらしい。

「大丈夫ですよ。私結構お酒強くて。まあ、こんなに飲むのは久しぶりなんですけどね。」

「しかし、嬢ちゃんや。お主、来た時より饒舌になっておる。酔いが回ってきた証拠じゃ。それに何があったのか知らんが、そろそろ家に帰った方が嬢ちゃんにとっても良いのではないか？」

「家、ですか…。」

ふと携帯の画面を見ると時計は2:30を過ぎたところだった。

終電も当然無くなっているから、帰りはタクシーに乗らないといけない。

ここから家までタクシーに乗ったら一体いくらかかるのだろう。

こんな所まで来ておいてそう考えてしまうのは、専業主婦の性だろうか。

そして何より、あの家に帰りたくないと思ってしまっている自分がいる。

また数時間後には始まる日常の事を思うと、ため息が出た。

「嬢ちゃん、悩みがあるならば、ここで吐き出してしまえば良い。溜め込むのが一番良くないと思うぞ？」

紅い目がじっとこちらを見つめた。

私がたった1回の浮気に耐えられずに逃げ出して夜遊びに走った女だと知ったら、軽蔑するだろうか。

心の狭い女だと思うだろうか。

「話しにくいならば、我輩は、嬢ちゃんの独り言だと思って聞くことにしよう。」

いや、この人はそんな風には思わない。

直感的に、そう思った。

この人になら心に溜まったモヤモヤしたものを吐き出せる気がする。

彼が纏う独特の雰囲気がそう思わせたのか、単にお酒の勢いなのかは分からない。

でも気がつくと私は口を開いていた。