雨、のち理性崩壊。Ⅰ【赤司征十郎】 (ページ2)

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…02 *。『あの日の記憶』ページ2

―赤司side―

。

「さみーな、もうこんな季節か……」

寒そうに、手を両手で擦り合わせている青峰を見て
ふとある少女の姿が思い浮かんだ。

――Aと出会ったのも、12月だっけ。

．

．

その日はとても寒くて、手が霜焼けてしまいそうだった。

その上、ものすごく冷たい雨が降っていた。

俺は父さんにやらされていた稽古事が嫌で

雨の中、家を思い切り飛び出して…
なのに、行き場所なんてなくて。

ただびしょ濡れて立っていた俺に、

傘をさして、声をかけてくれたのはAだった。

．

差し伸べられた手は優しく、包み込むような温かさで

それを今でも鮮明に覚えている。

あの日から、俺とAは毎日のように遊んでいたけど――

でも今は、

．

．

「いない、んだよな……」

Aは名前しか教えてくれなくて、苗字なんて知らなかったから

家がどこにあるかもわかんなくて

結局それっきりに――――

．

．

「赤司、おーい。何ぼーっとしてんだ？」

肩を叩かれたと思えば
青峰が俺の顔を覗き込んでいた。

『あぁ……少し、幼馴染のことを考えていてね』

この時はまだ、思ってもみなかった。

もう一度Aに会えるなんて、微塵も……――。

。