remember 3 ページ5
ハノイの騎士を倒したあの日以来、ジャービスからの連絡はない。ハノイの情報と出現を確認した時だけジャービスはメッセージを送って来るので、当然といえば当然。学校の放課後、遊作は誰もいない廊下へと出た。
「わっ、おっとっと…」
「大丈夫か?」
「あれ、藤木くん?ありがと…ちょっとよろけちゃって……」
廊下を出て、少し歩いた先の曲がり角。遊作は自分の方へとぶつかりそうになってきた彼女を受け止める。その正体は前にボールペンを拾ってくれた谷町Aで、腕には沢山のノートを抱えている。彼女はぶつかりそうになったことを遊作に謝り、彼から離れようとすると遊作が不意にAに声をかけた。
「その荷物、俺も持つよ」
「え、悪いし大丈夫だよ。藤木くん今から帰るんだよね?」
「特に用はないし気にするな。前にボールペンを拾ってくれた恩もある」
「うーん…拾っただけで恩なんて…。でも、ここで断るのも失礼かな?じゃあ、半分お願いしてもいい?」
Aが考え込んだ末に、遊作にそれを頼めば、お安い御用だと彼もAの持つノートの山を上から奪った。男として女に半分も持たせるのは悪い。無意識でも、それを感じた遊作が7割彼女の荷物を奪えばAが何かを言いかけてやめる。彼の善意を無下にするのは悪い。遊作がどこに運ぶのか、彼女に聞くと理科室と素直に答えた。
「谷町は日直だったのか?」
「ううん、たまたま会った先生に頼まれたの。全く持って迷惑だよね」
Aが先程より減った荷物を持って苦笑いをする。それに遊作が大変だな、と返せば更に眉を下げた。どうやらお人好しな性格らしい。放課後の廊下を歩くが、人の気配はない。すんなりと着いた理科室に、二人はノートを置き、用が済んだ其処から立ち去る。ぱんぱんっと、手を払ったAが遊作に礼を言った。
「藤木くん、ありがとね」
「気にするな」
「困ってたのは事実だから。ありがとう、この礼はまた今度」
礼なんて必要ない、遊作がそう言おうとする前にAは走ってじゃあね、と手を振る。走った彼女に遊作が声をかけることも出来ず、黙ってそこに立ち止まった。変なやつだ、遊作がそう思ったのと同時に完全下校五分前を知らせるチャイムが鳴る。遊作はその音を聞き、下駄箱へと歩き出した。
茜色に染まった空に、じんわりと深い青が滲んだ。
48人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
暁(プロフ) - とても面白いです!!次の更新楽しみにしています!! (2019年10月8日 12時) (レス) id: dd077ce83e (このIDを非表示/違反報告)
はな - 続き読みたいです!面白かったです (2019年4月16日 1時) (レス) id: 87d0cab806 (このIDを非表示/違反報告)
ヒナコ(プロフ) - 続き楽しみにしてます!頑張れ〜恋愛一年生、遊作! (2019年4月6日 21時) (レス) id: c6a15fa920 (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - ねこみこさん» コメントありがとうございます。お返事が遅れてしまい申し訳ありません。とても嬉しいお言葉ありがとうございます、ご期待に添えるよう更新頑張ります。 (2019年4月1日 1時) (レス) id: a80e55b6ef (このIDを非表示/違反報告)
ねこみこ(プロフ) - とても面白いです更新頑張ってください! (2018年7月3日 22時) (レス) id: 185c2ad794 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しゅりんぷ | 作成日時:2017年9月22日 17時