此処で接吻して頂戴【我妻善逸】

すきよ ページ2

「わかったから！ね？じゃあこっち来てよ」



私の手を引っ張って路地裏に連れて行く。

私は“此処で”って言ったの。


言ったの。



なのに貴方ってば私の事引っ張って路地裏で接吻なんてどうして。


目を瞑って唇を寄せて。


貴方の後頭部を押さえて私は長く長く接吻をした。


慣れてなんていないの。


辛かったの苦しかったの。



だけどそれ以上に胸はきゅっと締め付けられていて、俯いた。



「今日おかしいよAちゃん、何かあったの？」



貴方が一番知っているじゃない。




「悪いけどね、俺はAちゃんの心情察せないし音も聞こえないから言われないとわからないよ」




心当たりが無いのね、無いのね。




「黙って泣いても分からないよ言ってよ」




つらい





「教えて」






くるしい





「Aちゃん」



私は涙を拭いて、少し笑った。



「ちょっと甘えたくなったの」




「そっか、早く言ってくれればいいのに」





素直じゃないなぁ、そう言ってもう一度私の手を掴んだ。



素直って何。


我儘のことなのかしら。


どちらにせよ構わない。


私の体は粘土。


音を一切通さない防音の体。


張り裂けるほど胸が苦痛を訴えようと誰も知らない。

こんなにも壊れそうになっても。



だから貴方は悪くないの。

妄想じみた考えなの。

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