お姉ちゃんは男の人達を連れてくる【稲荷崎】【宮侑】 (ページ10)

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妹ページ10

「お、Aちゃんやん」

まず最初に話しかけてきたのは治さん。

ペコリと頭を下げたまま、うまく持ち上がらないのだった。

男性と話す経験が無いため、というかイケメンという未知の領域。

ずっと俯いて構えている。

エコバッグについたストラップが「逃げるな」と言わんばかりに無機質なプラスチックに私を映した。

「へぇ、知り合い？」

また別の声。

治さんでも侑さんでもない声。

暑いからか、汗がだらだらと止まらなくなる。

何が怖いのか私もわからないけど。

「はぁ、知らへんの？静安の妹やん」

「知ってるわけ無いでしょ、話なら聞いたことあるけど」

きっと侑さんは黙ったままだ。

「お前ら、怖がっとるやろ、俺らも暇人やないんやから行くで」

また別の人の声がして4人は遠のいた。

安堵するその数秒。

私の小指にむず痒い何か。

顔を上げたとき。

「Aちゃん」

額に柔らかい何かが触れた。

目の前を駆けていく侑さんの後ろ姿と、残った制汗剤の香り。

きっと顔も耳も真っ赤だ。

「へ…？」

情けない声が住宅街にこだまする。

只今、7月上旬。

汗が落ちる。