34.ちがうってば。 ページ35
******
『…すみませ〜ん？』
本部のテントへ足を踏み入れると、恐る恐る声をかける。
しかし、その声は忙しなく動き回るスタッフの人達には届かず切なく掻き消されていった。
ほぼ全員が慌ただしく準備に追われている中、無理に話しかけるのはなかなか気が引ける。
どうしようかとアワアワしていると、テントの奥で備品チェックをしていた男の人と目が合った。
『すみません！これ、書類…。』
「書類？あー、分かった渡しとくよ。」
忙しいせいか面倒くさそうな声と態度に若干怯みながらも、何とか書類を渡す。
邪魔してすみませんでしたと足早に去ろうとすると、「あ、まって」と呼び止められた。
「君、バイトの子でしょ？やること無いならこれ届けといて！」
『あ、いや私は…。』
言いかけている途中で、大きなクーラーボックスをずいっと差し出される。
半ば強引に押し付けられ、思わずよろけた。
「これ、出演者さん達への差し入れだから！ステージ裏の楽屋まで運んどいて。」
違うんだってば、と口を開きかけたものの、男の人はそれだけ言ってかけ足でどこかへ行ってしまった。
『…嘘でしょ？』
途方にくれたようにそうこぼしてから、小さくため息をつく。
(…まあ、運ぶだけだしいっか。
さっさと向こうの人に渡してお昼食べよう。)
クーラーボックスを持ち直すと、私はステージ裏へと向かった。
*****
「どうかされましたか？」
誰もいない入り口を目の前に、どうするべきかと思案していると、突然背後からそう聞こえた。
反射的に振り向くと、眼鏡をかけた男の人が凛とした表情でこちらを見ていた。
切れ長の相貌が、レンズ越しに私の様子を伺っている。
この状況からして、おそらく関係者の人だろう。
『本部から、出演者の皆さんへ差し入れです。』
そう言ってクーラーボックスを差し出すと、男の人は「ああ」と納得した声を上げてドアノブを回した。
「お忙しい中、ありがとうございます。
どうぞ、お入りください。」
開けられた扉に、一瞬きょとんとしてしまう。
ドアを押さえたまま道を開けてくれている彼が、不思議そうに私を見る。
…え、楽屋まで行けってこと？
促されるままドアをくぐれば、エアコンの風が私の首もとを冷やした。
混乱した頭で彼を見返すと、「突き当たりを右です」と淡々と告げられる。
私が何か言う前に、男の人は手前の部屋に入っていってしまった。
…おお、これはやばいことになったぞ？
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とお(プロフ) - わあぁあぁ好きです…！更新待ってます！ (2022年2月16日 21時) (
レス) id: 89d53c4d30 (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 悠希さん» なんと嬉しいお言葉を…！ありがとうございます(;_;) (2021年11月26日 12時) (レス) id: e457bdd78b (このIDを非表示/違反報告)
悠希(プロフ) - やばい瀬名泉がちゃんと瀬名泉してる…！(語彙力) (2021年11月20日 17時) (レス) @page39 id: afd5f610df (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - わー！有難いお言葉をありがとうございます…！めちゃくちゃ嬉しいです頑張ります;; (2021年10月26日 23時) (レス) id: e457bdd78b (このIDを非表示/違反報告)
じゃがいも - うわわわ………!!! 瀬名泉ならこういうこと本当にやりそうで面白いし、恋心に気付く瀬名泉さんの描き方がすごく好きです！応援してます！ (2021年9月6日 6時) (レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：作者 | 作成日時：2020年3月4日 22時
