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#15 ページ16

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「中でも……君を拾ったあの人と彼女(・・・・・・)の過去なンて難問でね。
 誰も当てられなくて、賭けの懸賞金が七十万にまで膨れ上がってるンだ。君も一度」



ちょうどその時、女給が配膳盆を持って現れた



「はいお待ちどお様です。熱い焙じ茶と汁粉のお客さ」



台詞を最後まで続けられなかった


芥川の長外套(コート)の裾を、女給が軽く踏んでしまったからだ


体重をかける前に、女給は反射的に足を退けようとした。だがその選択肢は誤りだった

引いた踵が外套の布地に引っかかった

「きゃあ」と短く叫んで女給は体勢を立て直そうとした和服の給仕服が足運びの邪魔をした

結果――彼女は大きくのけぞって、隣の客卓に両手をつくことになった


茶の載った盆が空中を舞った


芥川の頭上を




「!」




探偵社員が反射的に飛び出したが、間に合わなかった

――高熱の液体が、芥川の頭部にまともにぶちまけられた


ナオミが短い悲鳴を上げた。谷崎と国木田は、席から立ち上がって身を硬くした


国木田の手は――腰の拳銃にかけられていた


もう一瞬判断が遅ければ、拳銃を芥川へ向けていただろう(・・・・・・・・・・・・・・)

「足下を疎かにするな」芥川は何の感情も込めずに云った。「誰ぞ火傷はないか」


高熱の液体は、芥川の頭部にぶちまけられる寸前で、すべて受け止められていた

音もなく伸張した、芥川の外套によって。神速と云える反応速度だ


谷崎は国木田を見た。それから国木田が、ほぼ無意識に手をかけていた拳銃を見た


二人がとっさに動いたのは、女給を助けるためではなかった

芥川の火傷を診るためでもなかった

二人が動いたのは――芥川を殺すためだった(・・・・・・・・・・)


何故なら一瞬、芥川から、閃光のような殺気が噴出したからだ


己を害するモノに対する、本能的な反応

二人は反射的に予測したのだ――芥川が、女給の首を刎ねる、と


芥川は入社試験を通過したが、合格してはいなかった(・・・・・・・・・・)


芥川の入社には保留事項がついていた。慥かに芥川は、爆弾魔の事件を迅速に解決した

だが解決の迅速さは、入社試験合格に必要な条件ではない

探偵社員となるためには、己を律し義を貫く民護の精神

――それも極限状態でも揺るがない、高潔な精神が要る

それが探偵社社長・福沢の方針だった

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森ミク(プロフ) - 新双黒推しの白猫さん» お褒め頂き有難う御座います!白い華とセツナの愛シリーズは話数多いので読み返すのは大変だと思いますが…何度も読んで下さり有難う御座います。とても嬉しいです。そういって頂けると作者冥利?につきます!これからも頑張っていきたいと思います。 (2021年8月30日 15時) (レス) id: c515606cc3 (このIDを非表示/違反報告)
新双黒推しの白猫(プロフ) - やはり森ミク様の書く小説は凄いですね!白い華とセツナの愛シリーズ何度も読み返してます!いつも応援しています。更新頑張ってください! (2021年8月25日 18時) (レス) id: 1782e61157 (このIDを非表示/違反報告)
森ミク(プロフ) - 零さん» えっ…文才なんて一般人以下ですよ??読者様にそういっていただけると自信がつくので嬉しいです!コメント有難う御座います。 (2021年5月31日 19時) (レス) id: c515606cc3 (このIDを非表示/違反報告)
- 相変わらずの文才ですごいです...いつも感激しています!! (2021年5月30日 20時) (レス) id: cfcfb7c0ae (このIDを非表示/違反報告)
森ミク(プロフ) - yuunaさん» 応援ありがとうございます!以前、ほかの読者様にもリクエストをいただき、少しだけ呪術廻戦を見てにわかですが作品を作ってみました。夢主は太宰さん似の少女ですが、興味があったら暇つぶし程度で読んでみてくださいませ!! (2021年4月6日 16時) (レス) id: c515606cc3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:森ミク | 作成日時:2020年10月8日 18時

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