検索窓
今日:8 hit、昨日:1 hit、合計:99,385 hit

46.2 ページ46

私の複雑な気持ちを他所に、櫻井さんはどんどん歩き進み、止まることも、踵を返すこともできないまま、私たちは東棟の前に辿り着いてしまった。

少し俯きがちに立ち、櫻井さんが扉を開けるのを待つ。


「どうぞ」


「あ………」


扉が開いて、出迎えてくれたのは、サトシさんの絵。


………この絵は、このまま、残したんだ。


手のひらでそっとそのイラストたちをなぞりながら、それを眺める。
櫻井さんは私の気が済むまで待っていてくれて………


しばらく壁画を懐かしんだあと、エレベーターへと進み、最後のドアをくぐる。

ーーーこの螺旋階段は、前と同じ。

ーーー見下ろす景色も、変わらない。



温室も………ログハウスも、ダイニングテーブルも………一緒のまま……?


「さ、くら、いさん、」


自分の目の前に広がる、変わりばえない光景が信じられなくて、真実を確かめるように櫻井さんに目を向ける。


「うん。あのまんま」


少し自慢気に言って、私を覗き込む櫻井さん。


「どう?ビックリした?」


感激で言葉が出なくて、コクコクと頷く。

ーーーあまりにも変わっていなくて、そのまま、5人の息遣いが聞こえてきそうな空間。
階段から、サトシさんと二宮くんが並んでおりてきて、
台所では、松本さんと相葉さんが笑いながら何か調理していて、
そんな姿が目に浮かぶような、モノこそ少ないけど、あの日のままのログハウス。


「情けないけどさ。
いざ、この場所が変えられるって思ったら、
耐えられなくて。
会社のCR活動として使用するなら、見学者用にログハウス残すべきって叔父さん説得しちゃった。
子供の戯れ言みたいな理屈捏ねただけだけど、叔父さんは分かってくれてさ。
………ここで暮らすわけでもないのに、この場所を失えなかったんだ」


「よかった………
サトシさん、きっと喜びますね」


「うん」


「ココもまた、サトシさんにとっては、
『故郷』ですもんね……」


自然と出た言葉に、櫻井さんが固まる。
それから、口元を手で押さえて、思案するような顔をしたあと、眉をハの字にして笑った。
櫻井さんの目尻に涙が光る。


「ごめん……5分、ちょーだい?」


櫻井さんはそう言って、テーブルに頬杖つくような姿勢で、両手のひらに額をのせ俯いて黙ってしまった。

櫻井さんの、肩が小刻みに震える度に、木々がサワサワと揺れて、風が吹き抜ける。
………サトシさんみたいな、柔らかさで櫻井さんを撫でていく。

46.3→←46.1



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (311 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
163人がお気に入り

アイコン この作品を見ている人にオススメ

設定タグ:二宮和也 , 大宮 ,
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:えりんこ
作成日時:2014年9月16日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。