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私の複雑な気持ちを他所に、櫻井さんはどんどん歩き進み、止まることも、踵を返すこともできないまま、私たちは東棟の前に辿り着いてしまった。
少し俯きがちに立ち、櫻井さんが扉を開けるのを待つ。
「どうぞ」
「あ………」
扉が開いて、出迎えてくれたのは、サトシさんの絵。
………この絵は、このまま、残したんだ。
手のひらでそっとそのイラストたちをなぞりながら、それを眺める。
櫻井さんは私の気が済むまで待っていてくれて………
しばらく壁画を懐かしんだあと、エレベーターへと進み、最後のドアをくぐる。
ーーーこの螺旋階段は、前と同じ。
ーーー見下ろす景色も、変わらない。
?
温室も………ログハウスも、ダイニングテーブルも………一緒のまま……?
「さ、くら、いさん、」
自分の目の前に広がる、変わりばえない光景が信じられなくて、真実を確かめるように櫻井さんに目を向ける。
「うん。あのまんま」
少し自慢気に言って、私を覗き込む櫻井さん。
「どう?ビックリした?」
感激で言葉が出なくて、コクコクと頷く。
ーーーあまりにも変わっていなくて、そのまま、5人の息遣いが聞こえてきそうな空間。
階段から、サトシさんと二宮くんが並んでおりてきて、
台所では、松本さんと相葉さんが笑いながら何か調理していて、
そんな姿が目に浮かぶような、モノこそ少ないけど、あの日のままのログハウス。
「情けないけどさ。
いざ、この場所が変えられるって思ったら、
耐えられなくて。
会社のCR活動として使用するなら、見学者用にログハウス残すべきって叔父さん説得しちゃった。
子供の戯れ言みたいな理屈捏ねただけだけど、叔父さんは分かってくれてさ。
………ここで暮らすわけでもないのに、この場所を失えなかったんだ」
「よかった………
サトシさん、きっと喜びますね」
「うん」
「ココもまた、サトシさんにとっては、
『故郷』ですもんね……」
自然と出た言葉に、櫻井さんが固まる。
それから、口元を手で押さえて、思案するような顔をしたあと、眉をハの字にして笑った。
櫻井さんの目尻に涙が光る。
「ごめん……5分、ちょーだい?」
櫻井さんはそう言って、テーブルに頬杖つくような姿勢で、両手のひらに額をのせ俯いて黙ってしまった。
櫻井さんの、肩が小刻みに震える度に、木々がサワサワと揺れて、風が吹き抜ける。
………サトシさんみたいな、柔らかさで櫻井さんを撫でていく。
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作者名:えりんこ
作成日時:2014年9月16日 16時