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二宮くんの言葉に何度も頷く。
「翔ちゃんは、俺の気持ちも………サトシの気持ちも分かっていて。
父さんに………父に家の手配を頼んでくれていたんだ。
サトシと俺たちが暮らす森の家。
………で。俺にさ、サトシを連れて行ってあげてって、頼んできたんだ。先に行って待っていてって。
………俺のプレゼンなんてさー、する間も与えてくれなかったよ」
私がおおっ広げに夢を語る横で、静かに、でも確実に自分の夢の足場を固めていた櫻井さん。
サトシさんの夢も、二宮くんの想いも預かって、住環境を整えていた櫻井さん。
その言動の全ては、みんなへの愛と優しさ、責任感からきていて………
『翔くんは、自分が持っている力を全部使って、優しくしてくれんの』
デート中、サトシさんが言っていた言葉を思い出す。
櫻井さんの持つ包容力を前に、言葉もない。私はどれだけのことを、人にできるだろうか。
「………だからさ。俺とサトシがいなくなったら、翔ちゃんのこと、よろしくね?」
二宮くんが、サトシさんにやっていたみたいに、私の肩を肩でポンと押す。
「え?」
「たぶん、翔ちゃんには必要だから、俺たちのことを話せる人。たぶん、誰よりも、俺たちのこと愛してるから。
たまに、翔ちゃんの茶飲み友達やってあげてね?」
「………二宮くん」
「………で。
休みが合ったら、翔ちゃんと来てよ。みんなで待ってるからさ」
「………ありが、と」
櫻井さんが櫻井さんなら、二宮くんも二宮くんで。
優しさはどこまでも連鎖していく。
………私があんなに練習していた別離の時を、あっさりと翻し、その先を夢見せてくれる二宮くん。
二宮くんの描く未来に、私の分のスペースもちょこんと確保してくれていて。たぶん、それは、二宮くんのためじゃなくて、私のため。
ふー、って安堵の息、みたいのをついて二宮くんが笑った。
「今日、高橋さんに会えてよかったわ。
俺のノルマ終了」
って二宮くんが言った。
地下通路の入口に立ち、後方からくる2人を待つ。
あと4駅分、一緒にいられる。
そのことが、頑張ってきたご褒美のように感じられる。
「ごめんごめん!」
待つこと5分。
サトシさんと櫻井さんがやってくる。
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作者名:えりんこ
作成日時:2014年9月16日 16時