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手は繋がれたまま。
涙も流れたまま。
二宮くんが、いつもよりゆっくり歩いてくれる。
いつも通り少しだるそうな猫背で。
何も言っていないのに、二宮くんの足先は私の家の方に向かっていて。
その優しさに、また涙は加速しそうになる。
「あの日。
散策、して良かった」
ふいに二宮くんが切り出す。
私は、たぶんすごい勢いで充血している眼で………なんなら、鼻水もちょっと鼻下で光らせているような状況で、二宮くんを見上げる。
「その………ごめんね?散策のこと。
ちゃんと事情言わないまま連れ回してしまって」
今更ながら強引なことをしたものだ、と反省したくなる。
「ふふ、ちゃんと聞いてた?
良かった、って言ってんの、俺」
真意を掴めないまま、二宮くんを見たら、ぷっ、と吹き出された。
「本当、すごいよ、アナタ」
「………二宮くん、散策楽しかったの?」
「それもあるけど。
………あの散歩のおかげで、ココが、俺の街だって思い出したんだよね」
「俺の街?」
言葉尻をそのまま返したら、二宮くんの涙袋がぷっくりと膨らんで、キレイな瞳が緩められた。
「サトシのことがあってから、ココから離れることばっか考えていて。
………周りがあんまり見えなくなってたかなって」
二宮くんが以前、ふとした瞬間に見せていた陰を思い出して。
何も言えないまま続きを待った。
「あの日、散策して、いろいろ思い出したんだよね。
草野球したこととか、学校帰りに駄菓子買うのが楽しみだったこととか、初めて地下鉄乗った日のこととか。
あ、ココ、俺の過ごしてきた街だったんだって。
当たり前のこと、急に思い出した」
二宮くんは、少し自嘲気味に笑って。
でも、すごく清々しい顔をしていた。
「あのまま、ココ去ることになんなくて良かったわ。
ちゃんと、気付けたから」
二宮くんが歩みを止めて、私を見た。
「ありがとう」
ぺこん、て頭を下げて、王子様な顔で笑う二宮くんがいた。
学校の女子たちが、こぞってカメラのシャッターをきりそうな、キラキラの顔。
対する私は、鼻水を垂らしたまま、身体中の水分を目に集結させて、二宮くんを見ているしかなかった。
「わた、わたし、私こそ。
あり、ありがとう」
どうしても伝えたくて、一生懸命口にするのは、カタコトにすらならない、感謝の言葉。
二宮くんが笑いながら言った。
「何のお礼?」
「あり、ありがと」
「ふははは」
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作者名:えりんこ
作成日時:2014年9月16日 16時