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荷物をまとめ、自習室を出てエレベーターに乗る。
お母さんに今から帰ること伝えなきゃ、とスマホを取り出したところで
「今、帰り？」
ふいに声をかけられた。
キョロキョロと辺りを見渡すと、エレベーター脇の通路から櫻井さんが顔を覗かせた。
「さく、」
「シーッ！」
櫻井さんが口元に人差し指を添えて声を顰めた。
私も慌て口を窄めて、身を縮める。
………誰もいないみたい。
「良かった。一緒、帰らない？」
櫻井さんに誘われて、大喜びで頷く。
最近は、勉強ばかりで、ロクに人と会話をしていない気がしたから、櫻井さんと話して息抜きできることがとても嬉しい。
「…………今日はまけたんですね。ふふふ」
「負けた？………あー、巻けた、ね。
本当、すごいのよ、あのコたち」
誰からも好かれている櫻井さんだけれど、中でも、群をひいて目立っている取り巻き連中の女の子たちがいる。
たぶん、高校1年か2年生。可愛くてオシャレで、自分の価値を知っているようなコたちが櫻井さんの周りをいつも陣取っていた。
その彼女たちが、今日はいない。
「年末だからね、忘年会やろうとか言われて、あしらって逃げ出したとこ」
「忘年会、ですか」
「新橋のサラリーマンかよ、てね。
一昨日、クリスマス会断わったばかりなのに」
「モテますね」
「冷やかし半分でしょ」
あの子たちの大半はマジ、だと思うけれど。きっと、本気を見せたら逃げられちゃうって感覚的に分かっているんだろうな。
「あ………」
櫻井さんが前を向いて声をあげた。
「あ………」
私もその視線の先に同じ影を見つけて笑う。
塾の立看板脇に、しゃがみ込んでお尻を寄せ合っている2人の姿。
………おしくらまんじゅう？
「何やってんの？」
櫻井さんが破顔して近づく。
ふいに、二宮くんが立ち上がり、よろめきながらも体勢を立て直したサトシさんが軽い身のこなしを見せる。
「何、って。翔ちゃん迎えに来たんだけど」
「和、塾は？」
「なんか外野がうるさいから、家戻ったの」
ニッコリ、と笑ってアヒル口をしてみせる二宮くん。
2週間ぶり、かな。
「久しぶり、高橋さん」
「久しぶり。二宮くん。
………外野って？」
「あー、初詣の合格祈願一緒行こうとか、ね。もう、ひっきりなしに来ちゃうわけよ。
俺、勉強してんのに」
………さすが。
櫻井さんが櫻井さんなら二宮くんも二宮くん。
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作者名：えりんこ
作成日時：2014年9月16日 16時
