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冬休みに入った。
日曜日に、櫻井さんに見てもらう以外は、櫻井さんが教えている塾の冬期講習で勉強する日々が続く。
いつもなら毎年ユウナたち仲間と5、6人で集まってやっていたクリスマス会も、今年は自粛してくれて。
受験生らしく、イベントのない寒々しいだけの冬を過ごしていた。
櫻井さんは中学生の授業は受け持っているけれど、高校生に対しては分からないところを個別指導で教えるような感じで。
私と櫻井さんの接点は、塾ではほぼない。
………もっとも、塾で櫻井さんに話しかけるなんてかなり難易度の高い技を私が持っているわけなく、同じ空間にいながらも、すれ違う日々を送っている。
櫻井さんは男女問わず、塾で絶大な人気を誇っていて、櫻井さんの個別指導を受けたい人は2週間先まで分刻みで予約待ちと聞いた。
ウソか本当かわからないけど。
歩いているだけですぐに塾生に捕まってしまい、うかうかとトイレにも行けていない櫻井さんの様子を見ていると、噂はあながちウソじゃないと思う。
時々、自習室にひょっこり現れて受験生たちの様子を伺いにくる櫻井さん。その度にTDLで発見されたミッキーのごとく歓声があがり、静かにするよう諭しながら颯爽と消えていくような感じだった。
櫻井さんが自習室のドアを閉めようとする瞬間、いつも、あの、柔らかい眼差しと目が合う。
「大丈夫?」
目で訊いてくれて、コクコクと頷くと、その眼がさらに細められて。
本当に、役得だなぁ、なんて思った。
「センター試験は、世界史以外は慣れたもの勝ちだから。
この3週間は、ひたすら過去問やるといいよ?
時間配分も身につくし、問題の特徴と傾向が掴みやすくなるからね」
先週、櫻井さんから聞いたアドバイスを受けて、今はひたすらセンター試験の過去問を解くことに集中している。
少なくとも8割、あわよくば、8割強の点数が取れるように、時間配分に留意して繰り返す、ルーチンワークのような取り組み。
先週末で最期のセンター模試も終えて、いよいよ試験期間が目前に迫ってきた今、新しいことに手を出すよりは、その反復行為の方がよっぽど安心感をもたらせてくれる。
今日は17日日程の教科を試験時間に合わせて問いてみた。
自己採点して、見直しをして、間違えた箇所を中心に参考書を開いて。
時刻は7時ちょっと前。
早いけど、キリがいいからそこで止めて続きは家でやることにする。
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作者名:えりんこ
作成日時:2014年9月16日 16時