2.14(sideS) ページ26
「アディショナルタイムだよ、和」
腕時計の針を指差しながら伝えると、
和は、少し息を切らしながらも笑顔を見せた。
どうやら、侵入は成功したらしい。
何か収穫があったんだろうか。
1時間を少しオーバーしたけれど、無事に目的を果たせたなら良かったと思えてしまう。
「で?……何かわかった?」
1時間やそこらで、事業内容を把握できたとは思えないが、
松本さんが携わる何かの片鱗くらいは見えたのかもしれないと興味をそそられる。
和は俺を見てから、子どもみたいに無邪気な笑みを浮かべる。
それから、思い出し笑いでもしたのか、吹き出した。
「くはっ、バナナ食った」
「バ?」
「おじさんとバナナ食った」
「バナナって、え??って、中に人いたの?おまっ、大丈夫なの?え?」
動転して、言葉が続かなくなる。
後ろを振り返っても、誰かが追ってくる気配はない。
周囲を見渡しても、警備員や人の駆け寄る気配もない。
面喰らった顔をもろにしているだろう俺に、確信めいた顔で和が言う。
「翔さん、大丈夫だよ。あの人は言ったりしない」
「でもっ!」
尚も反論しようとする俺の言葉を開いた手のひらで遮ってから、小首を傾げる和。
俺のヨワイとこを、よくご存知で。
「翔ちゃん。来週もまた、よろしくお願いしますよ」
和はニンマリと可愛い笑顔をむけながら、悪魔のように残酷なお告げをしてきた。
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作者名:えりんこ
作成日時:2014年5月29日 12時